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福祉用具 買う?借りる?在宅編
2023.2.22

こんにちは!

ここのところ毎日寒くて、休みの日はホットカーペットでゴロゴロして、運動不足気味の髙木です。
休みの日に、ふと、テレビの情報番組で見たのですが、最近は衣服って買うだけではなくて、
借りるっていう選択肢も主流になってきているんですね。
特にネットで購入する場合などは、思っていた素材や色では無く、がっかりしてしまったり、
店舗で直接購入を考える時も、気になるけどちょっと価格が高いという理由で迷い、結果手が出ず、
後ろ髪引かれるように諦めたりするようなことが「借りる」という選択肢があることで、
思い切った決断がしやすくなり、心のモヤモヤが解決されることもありそうです。
実は、私たち福祉用具専門相談員の仕事の中でも、近いことが起きることがあるのです。
以前に施設入所時の購入・レンタルの記事を書いたことがありますが、記事をアップしてから1年以上経った今も、多くの方にお読みいただいています。
今回は、在宅での生活の際に起きるであろうことにポイントを絞って書いてみようと思います。

施設と在宅での私たちの関りについて

以前の記事では、施設で生活することを前提とした福祉用具を選ぶ際に福祉用具専門相談員が考えていることを書きました。要約すると・・・。

・動作の安楽性はどうだろう?
・廃用症候群(病気やけがによる長期間安静・運動量低下が、心身の不具合をもたらすこと)や床ずれなどの二次障害の予防への効果はどうだろう?
・QOL(クオリティ オブ ライフ:ご利用になる方の人生・生活の質)への影響はどうだろう?
・住環境や生活環境への影響はどうだろう?
・ご利用になる方のADL(アクティビティ・ デイリー・リビング:日常の生活動作→起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容)への影響はどうだろう?
・医療的な評価はどうだろう?
・介助方法への影響はどうだろう?
・ご本人やご家族の考えはどうだろう?

こんなことを総合的に考えて、福祉用具を選び、ご提案をしているとお伝えしました。
在宅生活での福祉用具の選び方も基本的には同じ考え方で行いますが、1つ大きく変わることは上記にプラスして、
介護保険制度が関わってくることです。

介護保険制度は成長期から成熟期へ

厚生労働省のHPには、
「介護保険の福祉用具は、要介護者等の日常生活の便宜を図るための用具及び要介護者等の機能訓練のための用具であって、利用者がその居宅において自立した日常生活を営むことができるよう助けるものについて、保険給付の対象としています。」とあります。

また、介護保険制度の基本的な考え方として、下記の文言も記載されています。
○ 利用者本位・・・利用者の選択により、多様な主体から保健医療サービス、福祉サービスを総合的に受けられる。
○ 自立支援・・・単に介護を要する高齢者の身の回りの世話をするということを超えて、高齢者の自立を支援することを理念とする。

おおまかに、私たちは、利用者様が望む自立した在宅生活を支えるために福祉用具を提供していることになります。
介護保険制度は、公の制度であり、公的な資金が投入されているため、介護保険制度の方針に則って業務を行うことで、私たち福祉用具事業所が対価(給付)を受取ることが可能となっているのです。

そんな介護保険制度も、開始から23年が経とうとしており、時代の移り変わりに柔軟に対応するために、定期的に改正が行われ、少しずつ形も変わってきています。
高齢化社会が進み、介護保険サービスの利用が増えることで、財政の適正化が求められてきているのは、ニュースなどでもご存じの通りかと思います。
福祉用具にかかわる部分では、いくつかの品目について「レンタル」と「購入」の選択制も議論されています。
元々介護保険制度での「レンタル」は、利用される方の身体状況の変化に柔軟に対応できるように、と考えられています。
例えば、現在はある程度、安定して歩行ができている方が歩行器を利用される場合、転倒リスクの軽減と並行して、日常生活の利便性(買い物利用時の小回りが利く・積み込みのための軽量特化)など、生活に与える影響の比率にも重心を置いて考慮することがあります。
インフルエンザなど、ちょっとこじらせてしまい、日常生活に変化が起きたことで筋力が低下してしまった場合、歩行が一定期間、不安定となるケースが見受けられます。
そういったケースは、「レンタル」であれば一時的に安定性の高い歩行器へと変更し、元の日常生活に近い状態まで復帰した際に、また元の歩行器へと戻すことが可能です。
もしこれが「購入」となっていた場合、不安定な歩行状態なのに小回りの利く歩行器、しっかり支えて欲しいのに軽くて心もとない歩行器を使わなくてはならなかったり、体力回復までの一時期のために新たな歩行器を購入しなくてはならない可能性が出てくるわけです。
自治体によっては、福祉用具の購入までの申請手続きに時間が掛かることも出てくるかもしれません。
現状は、選択制については、検討されているだけの段階ですが、時代の流れに沿いながら、財政面なども検討されながら、現状の制度は少しずつ形を変えてゆくのではないかと思います。
ただ、私個人としては、「レンタル」「購入」という選択は、金銭面だけでは、はかることができない大切な価値基準があるのではないかと考えています。
ここからお伝えするのは、「レンタル」と「購入」の選択制の議論の数年前のお話です。

「わたしゃ、まだ元気だから大丈夫じゃ」

その方とは、骨折して入院していた病院で、ご家族と一緒にお会いしました。
見出しになっている上記の言葉は、病院で私が自己紹介の際に、福祉用具の会社であることを名乗った瞬間にご本人の口から出てきた言葉です。
結局病院では、介護サービス導入の話は進まず、私もノコノコと会社に戻りました。

数日後、病院でお会いしたご家族とは別の方、お話をお聞きすると同居されているご家族から私に電話が入ります。
「先日は母が失礼なことを致しました、申し訳ありません」との謝罪のお言葉。
さらにお話を聞いてゆくと、「今まで母は家では全ての家事、また住んでいる町内では近所の方の世話など、なんでもやってきた。蜂を避けようとして不注意で転んで入院してしまったが、入院した途端に、「危ないから」という理由で、自分にも考えがあるのに、なにもかもを周りの人が決めてしまい味方が誰もいないと感じて辛かった。大きなものが運び込まれ、介護の人がせわしなく出入りするところは、どうしても近所の人には見られたくない、元気な姿で家に帰りたい」とご本人が話されていたとのこと。
そのお話を聞き、思い返してみれば病院では私も、福祉用具のレンタルありきで話をしようとし、ご本人はそれに気づいていたのかもしれません・・。(大反省です)
ここで、私の考えは一変します。

人生において何を大切にしたいのか?

その後すぐ、ケアマネージャー、リハビリの方々に電話をし、ご本人の希望を説明したところ、皆どこかで思い当たる部分があったのかもしれません。
「なんとか手ぶらで自宅に帰そう」
ケアマネージャー、リハビリの方はプランを組みなおし、老健で2か月程度みっちりリハビリを行った結果、手ぶらではありませんでしたが、見事杖1本で在宅復帰を果たしました。
その杖は、本来は介護保険でのレンタルが可能な製品だったのですが、当時福祉用具専門相談員になり、初めて自分の意志で購入する選択肢もあることをご本人にお伝えしたことを覚えています。
(選択肢の提案前にケアマネージャー、リハビリの方のご意見を伺っておきましたがw)
「あんた、わかってるじゃないの。病院で話した時よりはマシんなったわ。今度遊びにおいで。」
ちょっとトゲがなくもないのですが、私にとってはとても嬉しい言葉でした。
そして杖は購入されました。
その後何度か、運転中にお見かけはしていたのですが、杖は使っていない様子。

先日、ご本人に数年ぶりに道でバッタリご対面。
こちらが勝手に見かけていただけで、お話するのは本当に久しぶり・・。
「あんた、全然遊びに来ないじゃないの!」(お、覚えてるんですね・・・)
お聞きすると、どうやら杖は自宅に戻って以降ほとんど使っていない様子。
「レンタルにしておいた方が良かったですか?」と私が心配になりたまらず聞き返すと、
「あの時は杖をレンタルしていたら、介護サービスを使っているんだっていう気持ちで落ち込んでしまい、今みたいに外をほっつき歩くことなんてできなくなってた。私が選んで買った杖という気持ちがあるから、今日は危ないかな~っていう日にためらいなく使うことができるから」

今後福祉用具専門相談員に求められるものとは何か?

過去のケースを思い返してみると、介護保険制度の改定により、もし福祉用具の「レンタル」と「購入」の選択制が導入されることになったら、身体や住環境と福祉用具の適合だけではなく、心と福祉用具の適合という部分も重要になってくるように思います。
安易にレンタルの提案を行うだけではなく、他の選択肢も幅広く検討し、それぞれのメリット・デメリットをお伝えし、ご利用頂く方に納得して選択して頂くことができる情報を提供することが、これからの福祉用具専門相談員には特に求められてゆくと心掛け、毎日の業務に臨みたいと思います。

それって、ごく当たり前のことなんですけど・・・・これがなかなかに難しい・・・。
頑張れ明日の自分!
と言い聞かせて、今日は締めたいと思います・・。

読んで下さりありがとうございました!
したらね~(^o^)丿

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この記事を書いた人 高木仁志
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外食産業に15年従事し、東日本大震災を機に困っている方のお手伝いがしたいと一念発起。福祉業界に足を踏み入れる。プライベートでは、小学生と保育園児の長次男に振り回される、ラーメンが好きなおっさん。
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