前回の【マニアックが語る】これが分かれば介護リフトは「使える!」【スリングシート講座 選定篇】の文中でこう記載しました。
後編では、最初にご紹介した『退院したら奥様の介助があれば自宅内を動けるようにしたい!』という願いに対して介護リフトを提供した実践編をご紹介したいと思います。
ご本人様、ご家族様のご厚意により介護リフトを使っているご様子の動画もご紹介予定です。
・・・はい、この記載してから早2年経過しました、すみません(;´Д`)
というわけで、夏休みの宿題を締め切りギリギリまで溜め込んで一気にこなしていた栗原です、こんにちは。
今回は、スリングシート実践・運用編をまとめていきたいと思います。
この数年、社会福祉施設を中心に介護リフトを提案する中で、気づいた点が数多くありました。
そこで、そんな気づきを踏まえて、基本的なスリングシートの使い方から注意点などを動画も活用しながら紹介していきます。
①代表的なスリングシートの選定の考え方と使い方について
皆さん、スリングシートはどのように選定していますか?
機種ごとの選定方法は前回の記事でも記載しましたが、スリングシートの選定で利用者の身体への影響、介助者の働き方が大きく異なってくることも見過ごせません。
ここでは【脚分離型スリングシート】と【シート型スリングシート】に絞ってまとめていきたいと思います。
私自身の前職時代を振り返っても、介護リフトのスリングシートは【脚分離型スリングシート】が代表的だと思います。
さらに、着座先は下の写真のようにモジュール型車椅子をはじめとした【普通型車椅子】が一般的でした。
例)松永製作所のネクストコアとウェルネット研究所のコンフォートハイバックスリングの組み合わせなど
ただ、初めて介護リフトを導入する場合にはこの組み合わせが一番難易度が高いのではないか?って最近思っています。
この一般的な組み合わせは【障がい者介護モデル】から始まった福祉用具の始まりの歴史が影響していると個人的には考えています。
もちろん、今でも少なくはありませんが、おそらくこの記事を読まれている多くの方は【高齢者介護モデル】に携わる方が多いのではないでしょうか?
事前に介護リフトについて調べた方ほど、【普通型車椅子】×【脚分離型スリングシート】の情報にたどり着いてしまい、現場に導入することを難しく感じることが多いようです。
その理由を紐解いていきたいと思います。
まずは、代表的な組み合わせの移乗の様子を日本ケアリフトサービス株式会社のYoutubeチャンネルからご紹介します。
ベッドから車椅子への移乗
車椅子からベッドへの移乗
この一般的な組み合わせが初めての介護リフト導入を大変にする理由は主に2つの点です。
1.脚分離型スリングシートを脱着する必要があり、利用者に前屈動作を促す必要がある
実際に介護リフトの導入を検討する場合、【人力介護で移乗が大変になってきたから】という理由が多いはず。
移乗が大変になった利用者の場合、相対的に身体の緊張が高く、股関節を屈曲して前屈動作を行うことが難しいケースが多いです。
なのに脚分離型スリングシートは移乗を終えるたびに抜き取りが必要なのです。
脚分離型スリングシートは骨盤後方に縫製がされているケースが多いため、敷きっぱなしだと座り心地も悪く、褥瘡の危険性も上がってしまいます。
脱着をしなければならないのに、その脱着が大変で使うことをためらってしまう、という結果に繋がりやすくなります。
そこでオススメなスリングシートが【シート型スリングシート】になります。
実はシーティングの観点からだと吊り上がる姿勢が骨盤後傾になるため、あまり推奨されません。
しかし、初めて介護リフトを使用する、股関節の可動域が狭い、そもそも手間を減らしたい、という場合には非常に使いやすいスリングシートになります。
以下の動画ではシート型スリングシートの使い方を簡単にまとめた動画になりますので、是非御覧ください。
見ての通り、身体の下に敷き込むことができればすぐに使用できることがわかると思います。
つまり、【オムツの交換介助ができればすぐに介護リフトが使用できる】ということです。
また、股関節が曲げにくい状態の利用者の場合はスリングシートの紐(ストラップ)の長さを工夫すると、寝たままの姿勢で吊り上げることができます。
シート型スリングシートは車椅子に座った後は抜き取ることができないため、敷きっぱなしになります。
汚れや施設だと必要枚数が多く必要になる、というデメリットはありますが、【抜き取ることができない】ということは見方を変えればメリットになります。
そうです、職員からすれば【抜かなくて良い】スリングシートとなるのです。
シート型スリングシートを選定すると、車椅子着座後に抜かなくて良い、ベッドに戻るときに敷き込まなくて良いということになります。
つまり、現場の作業工程を2つも減らすことができるということです。
もちろん、脚分離型スリングシートをしっかり活用して運用できている法人・施設・ケアチームは数多くあります。
でも、介護リフトの導入がうまくいかない、現場に新しいことを導入する余裕がない、労務改善をベースに考えたい、このようなケースでは一考の余地があると個人的には考えています。
ちなみに、褥瘡の危険性に関してもリスクは少ない、と考えて頂いて大丈夫です。
皮膚・排泄ケア認定看護師の方と相談をしたときに、以下のような一言を頂いています。
シート型スリングシートは柔らかく伸縮性もあるため、素材的にはリスクは少ないと考えます。
また、身体の下のシートは吊り上がった時のテンションでシワなく着座ができるため服が1枚増えたのと同じといえます。
もしも上記を過度に心配して介護リフトを使わない場合に人力介助で浅く座る姿勢のほうがズレによる褥瘡リスクが非常に大きくなります。
そのため、褥瘡予防の観点からも介護リフトの活用、ならびにシート型スリングシートは推奨できると思います。
2.普通型車椅子の着座時に前輪が浮き上がるように操作しなければならない
2つ目のポイントは車椅子の構造と吊りあげ姿勢のズレによるものです。
普通型車椅子へ着座する場合、上記のように一工夫が必要となります。
これが難しい・・・(;´Д`)
この介助ができないと車椅子に浅く座る着座になってしまい、介護リフトを使用しているのに座り直しが必要となってしまいます。
では、この介助をしない方法は、ないのか?
それが動画内でも説明した【ティルト・リクライニング式車椅子】を選定することです。
そもそも、ティルト・リクライニング式車椅子は人力移乗を想定しておらず、介護リフトによる移乗を前提とした車椅子といえます。
構造的に立位介助による移乗が大変な反面、上からのアプローチによる着座が非常にスムーズです。
図のように、ティルト・リクライニングの機能を用いると吊り上げ姿勢と同じ角度に車椅子を調整することが可能です。
同じ角度になってしまえば、お尻を背もたれギリギリに降ろすようにするだけで深く移乗することができるようになります。
立てる人の移乗介助よりもよほど簡単だったりしますよ♪
車椅子の種類を移乗方法に応じて変更をする、ということは決して間違った方法ではありません。
車椅子上の過ごし方、移乗方法、介護力、そして本人のADL。
様々な情報によるアセスメントから、車椅子やスリングシートの選定を行ってほしいと切に願います。
誤解をしないでいただきたいのは、【普通型車椅子】×【脚分離型スリングシート】の組み合わせが悪いわけではありません。
むしろ、メリットのほうが多いといっても良いかもしれません。
反面、【導入の難易度が高いことは事実】ということも意識しなければならないのです。
おそらく、「そんな難しくはない!」という反論もあると思います。
しかし、【世の中に介護リフトが一般的に普及していない】これは事実です。
その一つの要素に【難易度の高さ】、もしくは【難しく感じる心理的なハードルの高さ】があることは否めません。
商品(組み合わせ)の良い・悪いではなく、適・不適でケアチーム・組織ごとに選定してもらえれば幸いです。
②介護リフトの事故を予防するためのスリングシートの注意点は?
介護リフトを導入・継続する上で一番回避しなければならないこと、それは【転落による事故】の予防です。
必ずと言っていいほど、導入前相談ではご質問があがるのもこの項目です。
では、転落による事故を予防するために何をすればいいのか?
ずばり、【お尻があがる直前で一時停止して、スリングシートの紐が全てかかっているかを確認すること】を徹底して行うことです!
極論を言うなら、ここさえクリアすれば残るのは、快適性の向上に関わる注意点ばかりなのがスリングシートの特徴になります。
※例外として脚分離型の脚部ストラップの交差は股関節まわりの事故予防で同様に重要です※
こんな言い方をすると様々な方面からお叱りの言葉を頂きそうですが・・・(;´Д`)
・スリングシートは左右均等に敷けていなくても落ちません!(着座の骨盤が傾くからできれば徹底してほしいけど・・・っ!)
・ハイバックスリングシートを選んでいれば、ベッドのギャッジアップを忘れても落ちません!(吊り上がるときにスリングが強く引っ張られるし、介助者がかけにくいからやってほしいけど・・・っ!)
・背抜き(圧抜き)を忘れても落ちません!(緊張緩和、安楽性の観点からは絶対やってほしいけど・・・っ!)
これらは総じて、介護の質を向上させる項目なんです。(もちろんやったほうが良いことばかりですよっ!?)
ですが、事故予防のために1つだけあげるとしたら?
繰り返しになりますが、【お尻があがる直前で一時停止して、スリングシートの紐が全てかかっているかを確認すること】を徹底して行うことです!
・・・これを忘れてしまうとどのようになるのか?
それを奇跡的に撮影することができましたので、皆さんにご紹介します。
該当箇所は3:16~になります
お恥ずかしながら、有料老人ホーム 浜松ゆうゆうの里 様の職員の方へ行っていた研修中に、私自身が確認漏れてしまったときに撮影された動画です。
他のことに集中していると、つい忘れることは誰でもあります。
だからこそ、強く、強く!、強く!!意識をすることこそが、事故を予防することにつながるのです。
伝達講習の際には全てのことを網羅して説明することよりも、【何を絶対に忘れないでほしいのか?】を意識してお伝えして頂くことを強くオススメします。
③介護リフト・スリングシートを導入するためのポイントは?
さて、色々述べてきましたが、介護リフト・スリングシートを運用・実践するための導入のポイントは何なのか?をまとめていきたいと思います。
一言で言えば・・・【習うより慣れろ】となります!
というのも、介護リフトとスリングシートは、実はそこまで難易度が高い福祉用具ではありません。
ではなぜ、現場で介護リフトを導入すると難しく感じるのか?というと、【身近なものではないから】というひと言に尽きます。
一つひとつの手順は難しくないのですが、今まで習得してきた介護技術の応用があまりできないため、最初の受け入れが難しく感じるだけなのです。
個人的には人力介助のほうが、よほど難しく感じます。
よく施設に伺うと話すエピソードに以下のようなものがあります。
私(栗原)は現場で働いたことがないため、立位が不安定な方を人力介助で移乗することができません。
しかし、介護リフトがあれば、たとえ気管切開されている重度の方でも私一人で移乗を行うことがおそらく可能です。
手順を守り、時間をかければ技術がない私でも安全に移乗を行うことができるのが、介護リフトの良いところだと思っています。
技術や現場経験がない私でも使うことができるんです。
5~10回も続けてもらえば、技術も経験も持っている皆さん(ご家族を含みます)ならば、必ず介護リフトは使用できます。
なんなら、オムツ交換ができるご家族なら、上記のシート型スリングシートならばすぐできるようになるはずです!
大切なことは、【安全に訓練を続けられる環境と時間、そして雰囲気の提供】にほかなりません。
介護リフトを現場に推進しようとする際の「難しそう」「ややこしそう」という先入観を捨て、まずは3ヶ月、みんなで使い続けることができれば間違いなく導入は可能です。
人は慣れることができるという素晴らしい能力を持っています。
そのことを仮説・実証するために弊社では『サザンカ』という介護リフトのトライアルサービスを実施しております。
このことは施設だけではなく、在宅の現場でも同様です。
それがわかるインタビュー動画を最後に御覧頂いて、おしまいにしたいと思います。
こちらの動画はヴェクソンインターナショナル株式会社 様から栗原がご依頼いただいて作成したインタビュー動画の一部抜粋となっております。
退院3日前からの介護リフトの導入検討~もしも介護リフトがなかったら?~
是非、皆さんのそれぞれの現場に適した介護リフト・スリングシートの実践・運用の一助になれば幸いです♪
おまけ
お尻のお肉が痩せて細くなっている利用者が脚分離型スリングシートを使用すると、穴に落ちたような姿勢になることがあります。
サイズを合わせるなど基本的なポイントもありますが、敷き込み方でも解決できる可能性があります。
この動画は以前この記事で紹介した山形県の障害児施設バンビーナ松原様からご相談頂いたときに作成した動画になります。
閉脚吊りという変わった吊り方の解説もしていますので、お暇なときに御覧ください♪