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スリングシート講座【選定篇】これが分かれば介護リフトは「使える!」
2022.5.30

皆さんこんにちは!トランスファーサポートチームの栗原です。最近はすっかりふくせん(福祉用具専門相談員)として働くことがなくなったのですが、先日、ライフサポートチームの冨永と一緒に在宅のご利用者様が退院するための福祉用具導入支援に立ち会う機会がありました。久しぶりにふくせんとして介入しましたが、非常に充実感があり楽しく介入をさせて頂きました。(冨永さん、好きに喋らせてくれてありがとう!(笑))

さて、私が介入したということはそうです、介護リフトが必要なご利用者様です。ご病気の関係でベッド上の端座位が不安定なADLのため車椅子はシーティングが可能なティルトリクライニング型車椅子『ネッティem』を選定しました。この大きな車椅子への移乗を奥様がお一人で行うため、介護リフトの提案は不可欠でした。もちろん、奥様もご本人様も介護リフトは見たこともありません。入院している病院にもありませんでした。見たこともなく、練習もできない状況で『退院初日から』介護リフトを使って移乗を行う・・・。そんなことができるのでしょうか?実は介護リフトだからこそ、可能なのです。その秘密はスリングシート(吊り具)の選定安全に使える敷き込み手順の習得が秘訣になります。今回は事例をもとに前後編に分けて『吊り具の選び方』と『介護リフト定着のために大切なこと』の2つのテーマで解説していきます。

意外と知らない!?吊り具の世界

介護リフトは床走行式、ベッド据え置き型、天井走行式など様々な仕様があります。選定時にはこの介護リフトの動きや設置場所などにどうしても着目しがちになります。設置後の生活動線や圧迫感など生活を左右するポイントになりますので、当然のことかと思います。しかし!使い勝手の印象や使い続けられるかのポイントはリフト本体だけではなく、吊り具、特にスリングシートの選定が大きく影響をしてくることはご存知でしょうか?

介護リフトは『リフト本体』と『吊り具』から構成される福祉用具です。このうち、介助者の操作が多い箇所が『吊り具』の部分になるため、吊り具の印象が介護リフトの印象全般になってくるのです。つまり、どんなに住環境に適した介護リフトを選定できたとしても、吊り具が生活やケア内容と適合していないと介護リフトを使い続けることができないということです。

実は弊社のラインナップだけではなく、他社のラインナップを含めても、リフト本体の商品数はそこまで多くありません。介護ベットや車椅子のほうがよほど種類も数も豊富です。ですが、スリングシートになると途端に種類が多くなり(とあるメーカーでは200種類に近いスリングシートがあるとか!?)、残念なことにカタログで比べてもほぼ違いがわからないのです。さらに言えば、実物を見ても差がわかりにくかったりします・・・。 では、どのように選んでいくと良いのでしょうか?ここを掘り下げて見たいと思います。

そもそも何故、リフト本体よりも吊り具の種類のほうが多いのでしょうか?その理由はご利用者様の身体に触れる製品だからです。介護リフトの対象者は小さなお子様から身長は高いけれども痩せている高齢者の方、下半身は痩せているけれども上半身はがっしりした脊髄損傷の方など、様々です。そのため、身体状況や身長、体重、ケアシーン、様々な要素により形状や素材を変える必要があるのです。例えるならば服と同じようなもので、大人用の服を子どもに着せればぶかぶかで脱げてしまいます。これはスリングシートの場合、転落や過度な包み込みによる苦痛に繋がります。また、ご利用者様の着用感だけではなく、介助者側の操作方法が吊り具の選定により決まってきます。

① 使用場面:居室・トイレ・お風呂

スリングシートは様々な種類があるため、目的が明確になることで選定が行いやすくなります。形状の条件を大きく左右する要因が『どこで使うのか?』という点です。例えば、トイレで使う場合にはズボンの上げ下ろしが必要になります。このズボンの上げ下ろしは『ハイジーン型』というトイレ用スリングシートでないと行うことができません。こちらのスリングシートは身体を覆う面積が少ない分、ご利用者様の身体状況に左右される要素が多いため、使用場面の確認を怠ってしまうといざ使用する時には適合しない、という場面が生じてしまいます。

お風呂場の場合は『チェア型』が環境的に適合すると非常に容易にリフトを使った入浴を実現することができます。シャワーキャリーの椅子の部分だけ分離する構造となっており、ケアの流れを変える必要なく、浴槽のまたぎや浴槽内での立ち座りを楽に行うことができるようになります。まだまだ認知度が低い方法ですが、導入された方々からは満足度が非常に高い吊り具になっています。どこで、誰が、どのくらいの頻度で使うのか、という目的やケアの流れがこの使用場面によっておおよそ決まってくるため最初に使用場面を確認することが必要です。

 

図①:使用場所や目的により形状が変わってきます

吊り上げる場所:ギャッジアップ機能があるか・ないか

ギャッジアップ機能とは、介護ベッドなどでフラットなところから起き上がることができる機能になります。布団などで寝ている方を介護リフトで吊り上げるときにはフラットな姿勢から座位に近い姿勢に変わりながら吊り上げていきます。その際にギャッジアップ機能がない場合、頭を覆うサイズ『ハイバック』仕様でないと頭を介助者が支えなければならず、せっかくリフトを使っているのに人力の介助と同じようになってしまいます。

ギャッジアップ機能付きのベッドなど、もしくは座位からの移乗の場合は頭の位置が吊り上げる姿勢に近い形になりますので、必ずしもハイバック仕様を選定する必要はなくなります。スリングシートの布地が少なくなると敷き込みやすくなるため、吊り上げる場所の姿勢によりスリングシートの仕様を変えると介助負担が減ることもあります。

図②:吊り上がる時の頭の位置によって、スリングシートの形状が変わってきます

着座場所:車椅子・床・ストレッチャー

着座場所は介護リフトの最後の操作に影響してきます。例えば、普通型車椅子に着座をする場合には車椅子の背もたれの角度と吊り上げ姿勢の角度が異なるため、そのまま着座すると浅く座る形になってしまいます。そのため、車椅子の角度を吊り上げ姿勢と揃える操作が必要になります。ちなみに、ティルト・リクライニング型車椅子の場合はそれぞれの機能を使って車椅子の角度を後方に倒すことで角度を揃えることができるため、リフトの着座は普通型車椅子よりも簡単に行えるようになります。余談ですが、もともと欧米ではティルト・リクライニング型車椅子はリフト移乗を前提とした車椅子だったのですが、日本に輸入されてきた時に車椅子の普及スピードに対して介護リフトまでは普及しなかったため、人力でティルト・リクライニング型車椅子に移乗を行う形が定着してしまっています。

着座後に行う活動により、スリングシートを外す必要があるかどうかが決まってきます。ご自宅で食事をするためならば敷きっぱなしでも良いかもしれません。しかし、デイサービスへの外出ならば外したほうが良いかもしれません。ただし、外す場合には戻る際に着座のままスリングシートを装着し直す必要があります。敷きっぱなしの場合はこの手間をなくすことができるため、あくまで一長一短の特徴になります。

着座後に外すことができる仕様を『脚分離型』、外すことができない仕様を『シート型』と分類されます。この手間の部分が次の介助者の介護力と関係してきます。

図③:着座後シートを外すか、外さないか、で仕様が大きく変わってきます

介助者の介護力:福祉用具の操作に慣れているか

残念ながら介護リフトはまだまだ一般的な福祉用具ではありません。そのため、介護リフトを人生の中で使ったことがある方は稀です。そのため、スリングシートの敷き込み方の習得が必要になります。選定した吊り具により介助者が覚えなければならないことが異なるため、誰が主にリフト使うのか、どのくらいの操作ならば覚えることができそうか、などを評価する必要があります。

私もそうですが、シーティングを専門にする者からすれば車椅子に着座後にはスリングシートは外すことが理想的です。しかし、それは着座姿勢からのスリングシートの装着を介助者に覚えてもらう必要があります。リフトを一度使って断念した方に何故断念したのかを伺うとこの着座姿勢からスリングシートを装着する方法が大変だった、という感想は珍しくありません。

着座のままスリングシートを装着するためにはご利用者様におじぎ、つまり前屈姿勢になってもらい、背中からスリングシートを差し込みます。残念ながら、この介助が困難で断念してしまうことが少なくないのです。詳しくはご利用者様の状態で後述しますが、『今介護リフトが必要!』と想定されるご利用者様は筋緊張が強い傾向にあり、前屈などの動作が困難な場合が多いです。その状況下で初めて使う福祉用具を覚えていくことがストレスになってしまうようです。

そこで、本当は着座後にスリングシートを抜きたいご利用者様だとしても、あえて抜くことができない『シート型』を選定することがあります。このシートは着座後に抜けない、裏を返せば『抜かなくても良い、ベッドに戻る時に敷き込み直さなくていい』という見方ができるのです。高知県の事例を下元佳子先生に伺うと、布の少ないトイレ用スリングをあえてトイレ以外の場面で選定することもあるとのことです。吊り上げた際の負担は脚分離型に比べれば大きいですが、ご家族が介護リフトを断念してしまい、人力の介助に戻るよりは何倍も身体にかかる負担は少ないからだそうです。誰が使うのか、を考えることが実は介護リフトを使い続けるための最も重要なポイントといっても過言ではありません。

図④:ご利用者様に合わせるだけではなく、介助者にも着目しましょう

ご利用者の状態:皮膚の状態・下肢の有無・疾患

そして、ご利用者様の状態ももちろん重要です。たとえば、下肢切断の方の場合、脚分離型が使えない場合があります。切断位置が膝から下ならば問題ありませんが、股関節の近くになると吊り上げることができなくなるため、その場合には敷き込み方や選定が特殊なものになっていきます。

そういった疾患等も大切ですが、実はサイズ選びが最も基礎で重要なポイントなのです。特に脚分離型の場合、大きいサイズを選んでしまうと骨盤周りの支えが少なくなり、お尻が落ち込んだような姿勢になってしまい、非常に苦しくなります。逆に小さいサイズの場合は太ももに敷いたスリングの長さが足りなくなり、食い込みがきつくなり、こちらも苦しくなります。

今までの項目で形状や仕様が決まってきたら、最後にご利用者様の身体のサイズに合わせた選定も忘れずに行いましょう。

 

図⑤:ご利用者様の状態はまだまだたくさんあるので、詳しくはご相談ください

餅は餅屋に任せるように、スリングシートはアップライドに任せてください!

見ていただいたようにスリングシートを選定するポイントは様々な要素があります。満点は難しいかもしれませんがより良い選択をするためにはアセスメント・評価が不可欠です。この記事を最後まで読んでいただいている皆様が漏れなく確認することは大変だと思います。そのため、皆様がどんなスリングシートを選べばいいだろう?と思ったときにお願いしたいことは1つです。

『どこからどこへ移乗をしたくて、何をしたいのか!』

このビジョンを教えて頂ければ、生活に適合したスリングシートのご提案が可能です。

是非、ワガママと思わずどのような人生を歩みたいのか、を教えて頂ければと思います。

後編では、最初にご紹介した『退院したら奥様の介助があれば自宅内を動けるようにしたい!』という願いに対して介護リフトを提供した実践編をご紹介したいと思います。ご本人様、ご家族様のご厚意により介護リフトを使っているご様子の動画もご紹介予定です。

それでは皆様、ぜひ快適な福祉用具ライフをお送りください!

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この記事を書いた人 栗原俊介
福祉用具一筋15年。福祉用具に関する発信を続けていると「マニアック」と呼ばれるようになりました。趣味のロードバイクは自分の身体でシーティングの効果を実感したいことが始めた動機です。
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