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【インタビュー】ノーリフティングケア実践が組織を強くする!―前篇― ゲスト下元佳子さん(一般社団法人ナチュラルハートフルケアネットワーク代表理事)
2021.7.15

こんにちは。アップライドの朝日信一郎です。
みなさんは、高知県が全国に先駆けて平成28年に発した「高知家まるごとノーリフティング宣言」をご存じでしょうか。少子高齢化の進む同県で、介護人材の定着促進に向けて、介護する側、される側双方の健康と安全を守るべく始まった取り組みです。この取り組みの誕生に大きな役割を果たしたキーパーソンが、ナチュラルハートフルケアネットワーク代表理事の下元佳子さん。今回はそんな下元さんをゲストに、ノーリフティングケアの大切さや、未来への展望についてお話を伺いました。理学療法士としての立場から、「質の高いケア」を問い続けてきた下元さんの思いがたっぷり詰まった対話、ぜひお楽しみください。

カナダ、北欧を訪ねて感じた、日本の介護現場とのギャップ


朝日
下元さんとの初めての出会いは、日本ケアリフトサービス(アップライドの関連会社)の研修に参加させていただいた時でしたね。下元さんがノーリフティングケアの活動を始めるようになったいきさつを教えていただけますか?

下元
私自身は理学療法士で、この世界に入ってもう30ウン年以上になります(笑)。最初に勤めたのが、まだ在宅リハなどできる環境も整っていなかった時代に、いち早く急性期から在宅介護まで手掛けていた病院だったので、そこのリハスタッフの一員として6年仕事して「分かったつもり」になっていたんですね。その後、結婚や出産をして、28歳で地域の老人病院に転職したら、びっくりだったのが、拘縮で手足が曲がって固まっている人が病室にいっぱいなんです。当時はまだ13~14床もある部屋があって、寝たきりで鼻にチューブを入れた患者さんばかりでした。

朝日
僕が業界に入ってから20年ぐらいですが、病床13とか14はさすがに見たことなかったですね。

下元
そしたら、「よかった、PTが来た」といって、拘縮改善のオーダーが医師から山のようにくるんです。でも、固まってる体は1日に数十分動かしても変わりません。私がPTとして患者さんに関わる時間だけじゃなくて、介護・看護のスタッフとご本人の24時間をいいものにしないことには、私たちの仕事は何の結果も出せないんです。そのことを痛感して、カナダのバンクーバーに視察に行ったのが、1993年です。カナダは北欧に比べるとあまりクローズアップされませんが、すでに1980年代からリフトや福祉用具の活用が広まっていたんです。2週間ぐらいのプログラムで現地のナーシングホームを回ったり行政の方に話を聞いたりしましたが、どこに行っても拘縮の人なんていないんですね。何が違うのかっていったら介護の仕方が違うんです。日本とバンクーバーのギャップを目の当たりにして、私たちの業界には欠けてる部分があるなと感じたのが、今の活動の始まりです。


カナダ視察時の写真

朝日
カナダでノーリフティングケアに出会われたと。

下元
実は、カナダやその後訪ねた北欧では、「ノーリフティングケア」という言葉はなかったです。なぜならそれが当たり前のケアなので、そこに名前なんかつける必要がなかったからでしょうね。私が「ノーリフティング」という言葉に出会ったのは、2008年にオーストラリアに行った時です。カナダから帰って以来、ケアを変えなきゃって、仲間たちと草の根的な福祉用具の勉強会を企業さんに手伝ってもらいながら、ずっとやってたんですけど、正直、現場が全然変わらなかったんです。そんな時に、現在の日本ノーリフト協会の保田代表から、「オーストラリアは1998年から人力で抱え上げる介護をやめる取り組みを始めて、10年で結果出してるよ」って聞いたんですね。だったら、現地でどんなふうに10年やってきたかを聞いたらヒントが見つかるんじゃないかと思ったのが、オーストラリアに行った理由です。

 

オーストラリアで学んだ「現場の意識と行動を変える」伝え方


朝日
私がオオタ商会(アップライドの前身)に入ったのが2005年なので、下元さんがオーストラリアに行かれる少し前ぐらいですね。転職前に在籍していた福祉用具の会社でも、シーティング姿勢が大事だとか、移乗を人手でやるのはよくないと言われてはいたんですが、実際にオオタ商会で初めてリフトを扱うようになって、本当にご利用者さんの生活が変わっていくのを見てきてるので、知識が実感に変わったという感じでした。当時、下元さんたちが頑張っても現場が変わらなかった理由はなんだったんでしょう。

下元
福祉用具がなかなか現場で活用されていない中で、用具をちゃんとわかって使える人が現場で増えたら介護も変わるだろうと思って、用具の使い方の研修を明けても暮れてもやっていたんですね。そうやってどんどん自分たちはオタクになっていって、マニアックな機械のスペックや知識ばかりを語っていたなと思います。本当は「抱え上げて体を傷めるようなことをやっちゃいけないよ」っていう風土を広げていかないといけないのに、テクニックや用具から広げようとしてしまった。それで管理者にまでなかなか伝わらなかったんですね。

朝日
そのお話を聞いて、自分自身も過去を振り返ってみると、自分の伝え方のせいでリフトを嫌いになってしまった人がたくさんいる気がします。リフトってどうしても福祉用具の中でも多少勉強しないと使えない部分があるせいか、こちらもつい語り過ぎちゃうんです。初めてクルマに乗る人に、このクルマのエンジンはこんなにすごいんだと語るようなことをあっちこっちでしていましたが、クルマに乗るか乗らないかを迷ってる方に、車体の性能の話をしてもしょうがないですよね。

下元
そうそう、あなたはどんなケアがしたくて、今何に困っていますか?って聞くところから始めないと。私の場合、対象者の二次障害を減らすために、リフトとか福祉用具を普及させたいって思いが先走っていましたが、その目標設定は間違ってたんだというのをオーストラリアに行って気づきました。


2020年2月、念願叶って高知の仲間と思い出のオーストラリアを再訪。

朝日
どういうことでしょう。

下元
ノーリフティングケア推進とは、組織体制を作っていくマネジメントなんだと気づいたんです。私は、オーストラリアで施設や病院が当たり前にリフトを使うようになったのは、技術教育に秘密があると思ってたんですが、そうじゃないんですね。彼らがやったことは、職員に「ごめんなさい、今まで私たちが教えたことは間違っていました。もうあなたたちはこんなケアをしてはいけない、変えなくてはいけない」と、まず伝える情報を変えて、意識を変えたんです。意識を変えないと行動は変わらないし、習慣化しないでしょ?と言われて、ああ私たちがやっていた研修は、意識や行動を変えるには程遠かったんだなと気づきました。

 

手づくりで始めた「福祉機器展」から広がったつながり


朝日
ナチュラルハートフルケアネットワーク立ち上げの経緯について教えていただけますか。

下元
先ほどお話しした地元の草の根的な勉強会が母体になって、年に1回情報発信しようと2002年に「福祉機器展」を始めました。私たちの福祉機器展は、都会でやっている大規模な商談展示会とはかなり違っています。企業さんごとに出展ブースを出すのではなくて、リフトならリフトばかりを集めてエンドユーザーや中間ユーザーがいろいろ見比べて、ご自宅や運営施設・病院に合うものを見定められることを目的としているので、企業さんたちにしたらちょっと面白いみたいです。それぞれ自前の商品を持ち寄って、普段はライバル会社なんだけど、高知の3日間だけはチームになって一緒に広げていく……。部活動みたいで楽しいよって言ってくれる企業さんもありました。

朝日
すごいですね。

下元
私の狙いは県内の人材育成をしたいということだったんです。高知は全国で3番目に人口も少なくて流通が何においても悪い。第1回目の福祉機器展をやった時には、企業に電話かけて、こんなことをするから出展してもらいたい、出展料もいらないし逆にお弁当もつけます(笑)、ってお願いしても「高知なんかでやって人が来るの?」と言われちゃう状態でした。それぐらい市場から外れてるってことは、新しい情報も入るわけないですよね。でも、どんなに人口が少なかろうと、企業さんに「この県はおさえておいたほうがいい」と思ってもらえる県づくりができれば、ご高齢者や障がい持った人たちにとってプラスになるはずです。


高知福祉機器展

朝日
なるほど。

下元
だから、私たちの福祉機器展は、コーナーを企業さんにおまかせするんじゃなく、そこにスタッフが何人もつくんです。そうやってスタッフが企業さんから学びながら、地域のリーダーとして横につながった関係を築いてほしいというのが目的でした。そういうことをやっていると、民間で変わったことやってる人たちがいると聞きつけた方が、全国から私たちの福祉機器展や勉強会に来てくださるようになりました。そこでお会いした専門職の方が言うには、東京や大阪の国際福祉機器展に行くと、ずーっと練り歩いて結局どれがよかったのかわからなくなっちゃうけど、高知のは同じものがひとつにまとまってて、比較しながら企業さんに相談したり、同じ専門職同士でディスカッションできるからいい、と。北は北海道、南は沖縄といろんなところから来てくださいます。

朝日
確かに大規模な展示会では、いろんなところを見て回られるお客さんに向かって、限られた時間で情報を詰めこみ気味に喋ってしまうので、僕らの会社と他社の違いがどれほど伝わってるのか、正直疑問に感じることはあります。そういった意味では高知の福祉機器展のお話はすごくいいですね。

下元
そのうち、そういう他府県の方々とも 情報交換できるようにネットワーク組みましょうということで 、一般社団法人ナチュラルハートフルケアネットワークを 立ち上げたんです。やがてボランティア団体ではむずかしいと感じて、自分たちがめざしてるところをしっかりやっていくためにも 2016 年に 法人格をとりました 。

【次号に続く】


「日本の介護を変えたい」とパワフルな行動力で周囲 を巻き込みながら進んできた下元さん。 次回は、その活動 がついに「高知家まるごとノーリフティング宣言」へとつながっていく様子をお伝えします。どうぞご期待ください。

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この記事を書いた人 朝日 信一郎
介護リフトの可能性に魅せられ10数年。スタッフのコーチングから現場仕事まで日々奔走中。シャイですが情熱は人一倍。
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