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【元介護士が伝えます!】実例紹介/浴室リフト導入改修で、現場の空気まで変わった特養のお話
2022.3.10

皆様、こんにちは。トランスファーサポートチームの山下です。
介護施設で働く皆さんが「介護リフトを導入したい」と考える動機のトップが、浴室かもしれません。滑りやすく転んだりする危険も多い浴室で、抱え上げる介助を続けることは、無理な姿勢や過度の緊張をスタッフに強いることになります。しかしながら、介護リフトなどの福祉機器が宝の持ち腐れにならず真価を発揮していくには、機器の性能だけでなく、機器を使う環境づくりもしっかり考えなくてはならないと私は考えています。
そこで今回は私が相談を受け、ご提案したリフト活用に向けた職場環境改善の事例についてお話させて頂きたいと思います。

「介護スタッフが負担なく働けるようにしたい。」という想いに応えたい!

神奈川県横浜市にある特別養護老人ホーム相生荘は腰痛に悩んでいる介護スタッフが多く、施設長はそのような環境を少しでも変えたいと考えていました。
私は過去に介護施設で働いていた経験があり、そこで介護リフトに初めて触れたことで、介助に対する考えがガラッと変わりました。心身への好影響も予想以上のものでした。そんな私の経験談を施設長や介護スタッフにお話ししたところ、介護スタッフからこのような話をされました。
「こういった機器は必要だし、使っていきたいと思う。居室で使っていくのも良いかもしれないけど、今一番問題になっている場所が浴室なんです。浴槽の形状からどうしても抱え上げないといけないし、床も滑りやすくて転んだりする方もいて危ないからそこをどうにかしたい。」と。
腰痛は介助姿勢等の身体面だけでなく、ストレス等の精神面にも要因があると言われています。
もしかしたら浴室の環境も腰痛になる要因のひとつになっているのではないか…私は介護スタッフと共に浴室の状況を確認しに行きました。

リフトを設置するだけでなく、浴室を改修して働きやすい環境にしよう!

浴室の状況を確認したところ、このような状況でした。

・据置の浴槽が深く、利用者様があがる時に介護スタッフが抱えないといけない、

・リフト浴側でも浴槽を跨いで入浴される利用者様がいるが手すりがないため、介護スタッフの介助が必要。

・スロープがすべりやすく、転倒の危険性が高い(利用者様、介護スタッフ共に)

配管等、施設の構造的に変えられないところもありましたが、心身共に負担のかかりやすい浴室の環境でした。
介護スタッフからは安心、安全に介助が出来る環境作りとして、「改修できるなら改修して欲しい。」という希望が聞かれましたが、「正直どういう形が良いのかわからないから、改修のプランと改修することでどういった動きになるかを教えて欲しい。」とも話されていました。
私は弊社の設計士・宮本と共に改修プランを考えていくことにしました。

改修プランは目先だけでなく、将来のことも考えたものへ

改修プランを考えていくにあたり、私が大切にしていたこと、それは「今」だけでなく「将来」も見据えていくことでした。高齢者施設(特に特養)では、入院や新規の入所等、ご利用者様が入れ替わるタイミングで、介護スタッフの介助負担が多い時もあれば、少ない時もあります。それに伴い入浴方法も変わることが多いです。相生荘では、浴槽をご利用者様が跨いで入浴する一般浴、椅子に座って入浴する中間浴、ストレッチャーに横になったまま入浴する機械浴の3パターンに分かれていました。そこで、上記3パターンの入浴方法の人数比率が変わったとしても柔軟に対応できるよう、浴槽の形状や介助スペース、リフトの可動範囲を考えた改修プランを立てていきました。
また、外部委託の工事業者にも私達が考えた改修が可能か、工事に費やす期間はどのくらいかかるのか等、アドバイスを頂きながら改修プランの精度を高めていきました。

プランの設定やリフトの活用方法は介護スタッフと共に

次に、出来上がった改修プランを介護スタッフに説明へ向かいました。浴室内で図面を元に浴槽位置や介助スペース、リフトの活用方法を説明した日もあれば、実際にリフトを持参し、介護スタッフに実機操作やリフトで吊り上げられる体験をしてもらった日もありました。説明や体験を通じて「徐々にイメージが沸いてきた。」「これなら負担が少なくなりそう。」という意見が聞かれた一方、「実際に改修して使ってみないとわからない。」という意見があったのも確かです。ですが、改修プランの検討段階から、介護スタッフを巻き込みながら一緒に考えたことで、最初は改修にあまり乗り気ではなかった、意見があまり出てこなかった介護スタッフから「普段は浴室まで車椅子で移動しているので、出来るなら階段ではなくスロープにして欲しい。」や「浴槽に入る方法はわかったが、ストレッチャーから着替えをするベッドにはどう移乗するのが良いですか?」、「スリングシートは濡れている時と濡れていない時と分けて使うことになりますよね?」等、改修する前提で改修後の動きの確認や意見が出てくるようになってきました。
施設長が改修を決断されたのも、こういったスタッフの変化を感じられたからです。

約1ヶ月の工事期間を経て、無事工事は完了しました。
私個人としては改修プラン通りに工事が問題なく進行できるかドキドキな日々を過ごしていました。
実際の工事の様子はこちらです。

≪改修前≫

・浴室

・脱衣場

≪改修中 (一部)≫

≪改修後≫

・浴室

・脱衣場

・浴槽①

・浴槽②

改修後の浴室お披露目、そして使用方法のレクチャー実施!

改修完了から浴室再稼働までの約1週間、介護スタッフへ浴室でのリフトの操作や活用方法等のレクチャーを行いました。改修期間中、浴室内には介護スタッフが入ることがほとんどなかったため、改修後の浴室を見て「綺麗になった。」「(介助スペースが)広くなった。動きやすそう。」「この浴槽なら上がりやすそう。」という意見が聞かれました。リフトを使用した入浴方法のレクチャーも行うと「意外と難しくなさそうだし、私達の負担が少なさそう。」というお言葉が聞かれました。また、リフト以外にもいくつかの発見がありました。たとえば、これまでこの施設では、機械浴のストレッチャーから更衣介助用ベッドへの移乗介助は、人の手で抱え上げて行っていました。施設にはスライディングボードも用意されていたのに、実際には活用されていなかったのです。そこで、リフト操作練習に加え、スライディングボードを使った移乗方法も実演を交えてレクチャーしたところ、「前も使ってみたけど、詳しく教わっていなく、怖かったから使わなくなっていた。けど、改めてやってみたら使えそうだから、また使ってみようと思います。」と。私はこれらの言葉を聞き、「提案して良かった。」「これなら介護スタッフも安心して働けるだろう。」と安堵しました。いくら便利な機器を支給しても、現場が使いこなせていなければ宝の持ち腐れであり、労働環境改善にはつながりません。リフトに限らず、新しい機器を導入する際には、その活用が現場に浸透・定着するよう支援することが何より大事だと改めて感じた次第です。支援も使い方だけでなく、「何のために使うのか」「使うことでどのような効果があるのか」等、目的も伝えていく必要だと思います。

後々聞いた話ですが、レクチャー後にリフトも含め、安全な介助が行えるよう浴室を使って介護スタッフ間で何度か練習をしたそうです。安全に使えるようになるには聞くだけでなく、実機を使って練習することで技術の取得に繋がります。また、使うだけでなく、使われる側も体感し、互いに感想やアドバイスをし合うことで、安全だけでなく、安心にも繋がる使用方法の取得ができるようになります。介護の質を上げるための自主的な動きが出てきたことを、何より嬉しく思いました。

目指すのは「介護スタッフが安心安全に働き続けられる環境作り」

浴室再稼働から数日後、介護スタッフと話す機会があり、その時にこのような話をしていました。
「元々、腰痛軽減のために何かしないといけないという気持ちがあった。けど、どうしていけば改善するのかわからなくて動き出せなかった部分があった。けれど、こうやって環境を変えてもらったことで具体的な行動が見えるようになってきた。だから前よりも介護スタッフの意識がどんどん前向きになってきていると思う。」
また、施設長も「ご利用者様の介助するのは介護スタッフ。だからこそ介護スタッフが安心して働ける環境を作っていきたい。快適に働ける環境じゃないと良い仕事が出来ないと思う。」と話していました。
心身共に負担の大きい介護現場では、腰痛も含めて改善していかなければならない問題は多々あると思います。介助負担を改善するために福祉機器の導入は有効ですが、継続的に活用していくには介護スタッフの意識も変わっていく必要があると思います。変わるきっかけは様々ですが、環境を変えることで意識が変化していくことがあります。今回、浴室の環境整備をきっかけに現場に生まれたのは、決められたやり方をただなぞるだけでなく、「よりよい介護とは何か」「働きやすい環境づくりとはどういうものか」を自分たちで考えていく意識だったと思います。浴室以外にもまだ課題は残っていますが、意識が変わったことで徐々に課題解決に繋げられるのではないかと思います。

トランスファーサポートチームはリフト等の機器の設置だけでなく、機器の有効活用に繋がる環境整備や活用方法等のサポートもしています。
もし、機器の活用方法等でお悩みがある方がいらっしゃいましたら、一度ご相談頂ければと思います。

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この記事を書いた人 山下奨
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元介護士。最初は「No!リフト」派だったのが、次第にリフトの魅力に引き込まれ、「リフトを世の中に広めたい」と一念発起し、営業職へと転職。
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