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【マニアックが語る】腰痛対策はアスベスト対策と一緒!?【第14次労働災害防止計画】

皆さん、こんにちは!
トランスファーサポートチームの栗原です。
今回は厚生労働省が発表した第14次労働災害防止計画についてのお話です。

2023年2月、厚生労働省労働政策審議会が「第14次労働災害防止計画」をとりまとめ、公表しました。
その中で着目すべき点は、
・労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進
・介護職員の身体の負担軽減のための介護技術(ノーリフトケア)等の腰痛の予防対策の普及を図る。

この2つのポイントになります。

全産業向けの中の腰痛対策重点業種、それが『保健衛生業』

今回の計画は『全産業向け』の労働災害防止計画になります。
その中で、介護職員の労働災害を重点項目として2023年~2027年の5年間取り組まれることになりました。
ちなみに、第13次計画の重点項目は化学物質による健康被害の防止や石綿使用建築物の解体作業に関する内容でした。
この石綿、つまりアスベストの解体作業に関しては現在、事前の調査や事後の報告などかなり細かく報告を行わなければならなくなっています。
(ちなみに、規模にもよりますが介護リフトの工事による取り付け、住宅改修もこの制度の対象項目になっています)
つまり国は、現在施行されているアスベスト対策と同じくらい、介護職員の労働災害(主に転倒・腰痛)を重く見ているともとることができるのではないでしょうか?
取り組むことへの加算対象ではなく、取り組まなければならない減算対象として腰痛等の予防対策をとらなければならなくなるかもしれません。
なぜ、全産業向けの労働災害防止計画のトップに介護職員の腰痛の予防対策の普及を図ることが取り上げられているのでしょうか。
それはひとえに平成25年に『新腰痛予防指針』が改定されてからも腰痛の件数が減るどころか増えているという事実からに他なりません。

平成30年度業務上疾病発生状況等調査(厚生労働省)より

各施設ごとの独自の取り組みを実施されていはいますが、令和に入ってからも腰痛の件数は増えているのが現状です。
そのため、令和3年9月に厚生労働副大臣から全国老人保健施設協会へ腰痛対策に対して重点業種と考えている要請書が提出されています。
このあたりの情報は『【マニアックが語る】腰痛予防だけではない!介護の新常識『ノーリフティングケア』ってなに?」』をご参照ください

この10年間、医療・介護の現場における腰痛の数が減らなかったという事実を基に、国が本格的に医療・介護現場の労働災害に対して取り組み出すということです。

アウトカム評価としては2022年と2027年を比較して、腰痛の死傷年千人率が下がっているかどうか、という点になるようです。
そのためにノーリフトケア(等)への取り組みを推進する、というスタンスを打ち出しています。
この2023年からスタートする本計画が2024年の介護保険・医療保険改正に影響しないとは思えません。

 

ケアの平準化がもたらす、もう一つの側面

上記のように腰痛予防のためのノーリフティングケアの推進が国の方針となりました。
この方針はもう一つ、介護現場に参入できる労働者の幅を広げることに繋がります。
福祉用具を活用するということは性差や体格差、経験の差によらず、同じケアを提供できるようになります。
つまり、働きたいという意欲を持っている人ならば、年齢などを理由に辞める必要がなくなります。
高知県の事例で今でも忘れられない話が、70歳を超えた女性の施設職員が今でも夜勤のラウンドをこなすことができている、という話です。
その方がインタビューで答えていた内容は以下の通りです。

「施設がノーリフティングケアに取り組んでくれているおかげで、私は今でも働くことができている」

福祉用具等を活用し、人力による介護ではなく、持ち上げないケアを実践することは、「人を持ち上げられなくなっても働くことができる」ということになります。
保健衛生業の仕事は人と触れ合う仕事です。
触れ合う必要はありますが、本来、持ち上げる必要はありません。

現在では、一般企業ですら人材不足が問題となっている中、腰痛などの労働災害に遭遇しやすい介護業界は避けられがちです。
しかしながら、身体的・精神的な負担が少ない場合、この業界で働きたいという希望も存在しています。
国は、これまでの事例から身体への負担が少ない職場への転換を進め、中高年齢の女性にとって魅力的な職場として介護業界をアピールしたいと考えています。
介護人材不足の問題は、2025年問題を始めとして深刻化しており、現在主力となっているベテラン女性職員の就労継続や、新しい就労先として期待される介護業界の需要を満たすため、中高年齢の女性にとって魅力的な職場を提供する必要があります。
そのため、労災による退職を避けるため、特に中高年齢の女性を対象にする文言がトピックスに掲載されたのです。

少しでもノーリフティングケアの普及に貢献できるよう、今後も情報発信や取り組みを継続していきます。
ご支援いただけますよう、よろしくお願いいたします。

 

※おまけ※全文を読んで要点をまとめたマニアックのメモを添付します
以下、私が計画の全文を読んで保健衛生業に関連するトピックスを個人的に要約したものを転載します。
全文に興味がある方は、上記のURLよりご確認ください。
~以下転載~
・全産業向けの災害防止計画にも関わらず、「介護職員の身体の負担軽減のための介護技術(ノーリフトケア)等の腰痛の予防対策の普及を図る。」という表記が、労働者の重点対策としてトピックスに掲載されています。
・第13次労働災害防止計画には、「化学物質による重篤な健康障害の防止や石綿使用建築物の解体等工事への対策の着実な実施」という内容が盛り込まれています。現在、アスベスト対策として法整備が進められており、リフト設置や住宅改修を含む工事については、事前調査等の実施・報告が義務化されています。つまり、本計画に記載されている重点対策については、法整備を含めて国が積極的に取り組んでいるということになります。
・労働者の安全衛生対策は、事業者の責務であることが前提となっています(新・腰痛予防対策指針等を参照)。さらに、「費用としての人件費から、資産としての人的投資」への変革の促進が掲げられています。
・計画の期間は、2023年度から2027年度までの5年間です。
・「項目(ア)」という最初のトピックでは、保健衛生業が取り上げられていることから、国がこの業種を重点的に見ていることは確実である。
・中高年齢の女性を中心にした労働者の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進において、『卸売業・小売業』、『保健衛生業(医療・福祉)』が取り上げられています。
・保健衛生業の事業場における正社員以外の労働者に対する安全衛生教育の実施率を2027年までに80%以上にすることを目指します。
・介護・看護作業において、ノーリフトケアを導入している事業所の割合を2023年と比較して、2027年までに増加させます。つまり、ノーリフトケアの実施数が国の達成目標となることを目指します。
・アウトカム指標(施策や事業の成果をわかりやすく表すもの)として、2022年と比較して2027年までに、増加が予想される社会福祉施設における腰痛の死傷年千人率を減少させることを目指します。
・計画の評価と見直しは毎年実施することとします。
・また、高年齢労働者の労働災害防止対策の推進もトピックスで取り上げられています。そのため、エイジフレンドリー助成金(65歳以上の高齢者の就労に関する助成金)などに関しては、制度改正が進む可能性が高いと考えられます(財源の問題があるかもしれませんが)。
ノーリフティングケア
介護保険制度
この記事を書いた人
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栗原俊介
福祉用具一筋15年。福祉用具に関する発信を続けていると「マニアック」と呼ばれるようになりました。趣味のロードバイクは自分の身体でシーティングの効果を実感したいことが始めた動機です。
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