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【マニアックが語る】腰痛予防だけではない!介護の新常識『ノーリフティングケア』ってなに?
2022.9.22

皆さんこんにちは!
トランスファーサポートチームの栗原です。
皆さんは『ノーリフトケア®』、もしくは『ノーリフティングケア』という言葉をご存知ですか?
現在、特に介護現場では労働人口不足が社会問題になってきています。
また医療の現場でも、感染予防のために従来の労働環境では解決できないことが増えてきています。
そのような中、今急速に広がっているケアメソッド、それが「ノーリフティングケア」なのです。
目下、弊社トランスファーサポートチームの営業4人衆が、「ノーリフティングケアへの想い」をテーマにリレーコラムを執筆中ですが、最初は『ノーリフティングケアってなに?』という基礎知識を、ノーリフトケアコーディネーターである私なりに整理をしていきたいと思います。
私のノーリフティングケアに懸ける想いは別記事で記載する予定ですので、そちらも是非お読みください♪
では行きましょう!

 

そもそも、ノーリフティングケアって何?その定義は?

まずはじめに、ノーリフティングケアについて整理をしてみたいと思います。
ノーリフトの発祥はオーストラリア発信のケアメソッドと言われています。
日本ノーリフト協会には以下のように記載されています。

かつて、オーストラリアでは看護師の身体疲労による腰痛訴え率が上がり、
離職者が増えて深刻な看護師不足に陥りました。
そこでオーストラリア看護連盟が看護師の腰痛予防対策として
1998年にノーリフト®をスタートさせたことに端を発します。

人力のみの移乗を禁止し、患者さんの自立度を考慮して福祉用具を活用しようという考え方です。

よく誤解をされますが、抱え上げないケアの技術ではなく、抱え上げないために何をしなければならないか?という考え方がスタートということですね。
業務が原因で身体痛めてしまい、離職者が増えたため深刻な労働力不足になる。
今の日本の介護現場にも共通している社会問題に対して20年以上前から取り組まれ世界に広がった考え方、それが「ノーリフティングケア」なのです。

『職員用テキスト ノーリフト®ケア実践マニュアル日頃から行う腰痛予防対策』では以下のように記載されています。

介護される側・する側双方において安全で安心な、抱え上げない・持ち上げない・引きづらないケアをノーリフト®ケアとよびます。
「安全で安心な」看護・介護を提供するには、身体の間違った使い方をなくし、対象者の状態に合わせて福祉用具を有効に活用し取り組むことが必要です。
福祉用具を使うことが目的ではなく、双方の健康的な生活を保証できるケアを実践することを目的としています。

 

ノーリフティングケアの目的は?
~5年後も働き続けられる職場づくりのために~

結論から言うと、

職員の誰もが安心して安全に働ける職場づくりとともに、
対象者も安全で安心してケアを受けられる職場をつくること

これがノーリフティングケアの目的となります。

つまり、重度者限定・重い利用者様限定・腰痛を持っている介助者限定、という誰かに限って取り組むことではありません。
介護現場で働く人すべて、つまりケアワーカーだけではなくデスクワーカーや調理師の方、清掃員の方も含まれます。
現場の職員は楽になったとしても、それを支える他の社員がしんどいままでは、他の社員が辞めてしまいますからね。
また、安全・安心してケアを受けられるよう介助される側すべての人が対象となります。
けして、

人力でもう無理だから・・・
もう自分で動くことができないから・・・

というようなネガティブメッセージがスタートではなく、

どうすれば5年後も10年後も働き続けられるか?
痛くない、つらくない、楽しく過ごしてもらうにはどうすればいいか?

このようなポジティブメッセージをスタートに取り組める職場づくり、つまり

労働安全衛生マネジメント』の導入をしていくことが重要なのです。

 

感染予防と同様に、腰痛予防に取り組まないのは何故!?

労働安全衛生マネジメントという言葉は耳馴染みがあまりないと思います。
かくいう私もかつてはそうでしたので、一度言葉を分解・整理してみましょう。
私はいつも下記のように考えています。

労働:働く場所・生活の場所
安全:怪我の予防・事故の予防
衛生:感染予防・職業病の予防

私を含めた働く人達は大なり小なり1日のうち1/3~半分くらいは職場で過ごしています。
つまり、人生の中で職場から受ける影響というのは決して小さいものではありません。
また、在宅介護をされているご家族からすれば、まさしく介護の現場は生活の場所です。
その生活の場で事故が起こらないように、また新型コロナやインフルエンザに感染しないようにすることは至って自然なことです。
ですが、何故か腰痛を始めとした職業病になると「個人で気をつける」という対策になりやすくなってしまいます。
家族や職員が新型コロナやインフルエンザに感染すると困ります。
では、家族や職員が腰痛になると困らないのでしょうか?
そんなことはないはずなのに、何故か私達は無意識に別物と判断してしまいがちです。
これは腰痛が身近になりすぎていて、「働いていれば必ずなるもの」という認識が少なからずあるからではないでしょうか?
「介護職は腰痛になって一人前」これは15年前には普通に言われていた言葉です。
「介護職が患者にならないよう、腰痛対策に取り組むことが一人前」このようになってほしいと切に願っております。

 

腰痛の原因は業務中の不良姿勢にあり!!

とりあえず、皆さん下の写真見てどう思いますか?

これ、私が2年前にリモートワークを始めたときの環境でした(;´Д`)
こんな環境で8時間働き続けたらどうなるか・・・一目瞭然ですね・・・。
そのため、家にある様々なものをかき集めて対策をしたのが次の写真です。

労働中の姿勢改善が腰痛予防を始めとした健康維持のために重要なことがよくわかったと思います。
介護の現場でも同様で排泄介助や入浴介助、移乗介助のときに中腰姿勢やひねりの動作、いわゆる不良姿勢が多く確認されています。
この回数が多い人は相対的に腰痛や就労中のストレスが高い傾向にあります。
逆に言えば負担が少ない職場環境になると職業病の予防もできてストレスが少ない職場になります。
結果として退職者が減り、労働生産性の向上につながるのです。

 

『新・腰痛予防対策指針』って知ってますか?

実は昔から日本では労働者の腰痛予防に取り組んできていました。
過去には運送業や工場などで腰痛や転落事故などの労働災害が数多く報告されてきました。
そのため、全産業向けに腰痛予防対策指針を打ち出し、各産業で対策をとるようなっていました。
その後、平成25年に19年ぶりに改定されたものが『新・腰痛予防対策指針』です。
全産業向けにも関わらず保健衛生業(医療・介護)では個別の腰痛予防対策を示されているのはご存知ですか?
その中には下記のように記載されています。

4 福祉・医療分野等における介護・看護作業
・リスクアセスメントを実施し、合理的・効果的な腰痛予防対策を立てる。
・人を抱え上げる作業は、原則、人力では行わせない。福祉用具を活用する。
・定期的な職場の巡視、聞き取りなどを行い、新たな負担や腰痛が発生していないか確認する体制を整備する

ここで重要なことは2つ目の「人力では行わせない」という文言です。
「行わない」という個人の努力ではなく、「行わせない」という組織の強制力をもって取り組むべき文言になっています。
なぜ福祉・医療分野のみこのように取り上げられているのでしょうか?
その答えは次のデータが示しています。

見ての通り全産業の中で労災による休業の数が最も多く、その中を腰痛が占める割合も全産業中TOPだったのです。
意外かもしれませんが建築業や運輸交通業、製造業よりも私達の職場のほうがよほど腰痛の割合が高いのです。
こちらのデータは平成26年のデータのため、新・腰痛予防指針から1年しか経過していません。
まだあまり効果が出ていないだけかもしれませんね?
そのため、平成30年の同様のデータを出してみましょう!

はい、順調に(?)増えてます☆
・・・・(;´Д`)

そして令和3年9月には厚生労働副大臣から全国老人保健施設協会へ次のような要請書が提出されました。

この中には次のように記載されています。

令和2年の死傷災害(休業4日以上の労働災害)は前年比で3割以上増加し、災害発生率も年々大幅に増加するという極めて厳しい状況にあります。
発生している労働災害の内訳を見ると、腰痛等の「動作の反動・無理な動作」、ついで多いのが「転倒によるものですが、これらのうち1ヶ月以上の休業となるものが約5割に達するなど、厚生労働省としては労働災害の重点業種と位置づけております。

私達、介護の業種は厚生労働省から労働災害の重点業種として位置づけられているのです。
皆さんも存知の通り、2025年度には介護職員が253万人必要とされるところ、就労の見込み人数は215万人とおよそ38万人の労働人口が不足すると言われています。
就労すると身体を壊す、そんな業界に新しい人が集まりやすいでしょうか?
また、今働いている人たちも働き続けることができるでしょうか?
腰痛は本人はもちろん、ケアを受けるご利用者様、雇い主である社会福祉法人、そして国の行く末・・・、これらすべてを変えてしまう危険性があります。
だからこそ、組織を上げての対策として労働安全衛生マネジメントを導入した職場づくりが急務となっているのです。

※2023年8月8日追記※
この記事を書いてから1年経ちましたが、各団体から様々な動きがありました。
まず、厚生労働省では職場における労働衛生対策の中で腰痛予防対策としての特集ページを掲載しています。
こちらのページでは職場における腰痛件数の推移やそれに対する国の腰痛予防対策指針の動き、介護職員の腰痛対策としてノーリフティングケアを推進するという第14次労働災害防止計画などがまとまっています。
第14次労働災害防止計画に関してはこちらの記事でまとめておりますので、ぜひこちらの記事も御覧ください。

また、日本看護協会でも大きな動きがありました。
看護師の腰痛予防対策についてというページが公開され、その中ではボディメカニズムだけでは腰痛予防ができないこと、福祉用具の活用を促すこと、つまりはノーリフティングケアの推進が提言されました。
令和5年の看護師国家試験では在宅ケアの分野にノーリフティングケアが追加されるなど、この1年間で大きく動いた団体といえるかもしれません。

他にも、こちらの記事でもご紹介した合同会社ナレッジソース様が主催されているノーリフティングケアに関する研修が今でも横浜で開催されていますが、最近では北海道から九州まで、日本全国から参加者が集まっているそうです。
ノーリフティングケアに関する関心が広がっている一方、情報を得ることができる機会がまだまだ少ないことを物語っていますね。

今後も新しい情報があれば随時追記していきたいと思います。

ノーリフティングケアは介助者のためのもの?

ノーリフティングケアの普及を行っていると一つの課題にぶつかることがあります。
それは「腰痛予防なら、私は腰痛ではないから大丈夫!」という言葉です。
もちろん、上記の通り今腰痛がないだけで業務上発生する可能性があるならば対策を取るべきです。
しかし、ノーリフティングケア=腰痛予防対策、という印象が強すぎてしまい、腰痛の有無が取り組むかどうかの基準になってしまっていることが残念です。
腰痛予防は重要な要素ですが、ノーリフティングケアの効果・重要性はそれだけではないのです!
以前にも福祉用具のマニアックが送る~福祉用具と働き方と考え方~という記事内で触れましたが、人の手には限界があります。

皆さん、30キロのご利用者様の印象はいかがですか?
おそらく、痩せている、小さい方、高齢の人、『軽い』などのキーワードが思い浮かぶのではないでしょうか?

そこで、30キロのお米はの印象はいかがでしょうか?
今度は、『重い』、持ちたくないなどのキーワードになりませんか?

同じ重さなのに私たちは無意識に別の答えにたどり着いてしまうものです。
そのため、今行っている動作が自分にとってどのような負担になっているか、を今一度考える必要があります。
この質問は先程の腰痛予防に通じるものとして、よく研修で使用している質問になります。

それでは、次が本題です。
皆さん、少し考えてみてください。

30キロのお米を人力で運ぶとき、ぶつけず、こすらず、(袋を)破かずに運ぶことはできますか?

できる人もいるでしょうが、難しい、無理っ!という人もいますよね?
では、もう一つ質問です。

30キロのご利用者様を人力で運ぶとき、ぶつけず、こすらず、(皮膚を)破かずに運ぶことはできますか?

いじわるな質問をしている自覚はあります。
ですが、この質問をすると、ほとんどの方はできます・・・という回答を頂きます。
先の質問に無理、と答えていた方もです。
ほとんど人はなんとも言えない表情をしながらですが・・・(苦笑)
このお米はできないけどご利用者様はできる、という矛盾した答えのツケがご利用者様の二次障害という形で生じているのです!

 

二次障害や職業病の予防に取り組む。
そのためにはノーリフティングケアが必須なのです!!

15年前、私が在籍していた福祉の学校で使っていた教科書には次のようなことが記載されていたことを覚えています。
「温かみを感じる人の手によるケアが望ましく、福祉用具は必要最低限にすることが重要である」
当時は特に何も感じずにそういうものかと読み飛ばすくらい、当時はそれが当たり前でした。
しかし、今は明確に違うといえます。
人の手によるケアだけでは二次障害が発生してしまうのです。
そのために福祉用具を導入しようとしても、時間がかかりめんどくさい、というご意見をよく頂きます。
ですが・・・

「時間がかかるから福祉用具は使わない」という考えで、自分や仲間の身体を痛めたり、対象者の廃用性をつくるようなことをするのはプロのすることでしょうか?

『職員用テキスト ノーリフト®ケア実践マニュアル日頃から行う腰痛予防対策』より引用

褥瘡・緊張の増進・変形や拘縮・誤嚥性肺炎・日中の覚醒不良、これらの二次障害や腰痛を始めとした職業病を予防するためにどのような対策を取ればいいのか?
その答えを探すためにノーリフティングケアのケアメソッドがポイントになってきます。
日常のケアの中で抱えあげない・持ち上げない・引きづらないケアが実践できていない現場、つまり課題の見える化から取り組み、一つずつ課題を解決するPDCAサイクルを回していきます。
その先には介助者・ご利用者様双方の健康的な生活を保証できるケアが実践されるようになります。
つまり、介護の当たり前が変わる、文化が変わるのです。

是非、私達アップライド株式会社と一緒に、世の中の当たり前を変えていきませんか?

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この記事を書いた人 栗原俊介
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福祉用具一筋15年。福祉用具に関する発信を続けていると「マニアック」と呼ばれるようになりました。趣味のロードバイクは自分の身体でシーティングの効果を実感したいことが始めた動機です。
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