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【マニアックが語る】社会情勢上も避けては通れないノーリフティングケア
2023.1.17

皆さんこんにちは!
トランスファーサポートチームの栗原です。
私は以前から、次の介護保険改正のときに『ノーリフティングケアは必ず何かしらの形で組み込まれるはずです!』と発信してきました。
まだまだ知られていない言葉かもしれませんが、いよいよこの言葉は『知らなければならない言葉』になってきたかもしれません。
今回は、ノーリフティングケアが2024年の介護保険、医療保険の同時改正でどのような位置づけになってきているか?を速報レベルですが整理していきたいと思います。
国の動向をいち早くキャッチして、次の改正までの準備に活かしていきましょう!

目次
1.介護保険の動向
2.労働基準局の動向
3.医療分野の動向
4.その他民間団体の動向

 

1.介護保険の動向

2023年1月16日現在、介護保険におけるノーリフティングケアの動向は具体的にはまだ出てきていません。
しかし、2021年の改正に関する介護給付費分科会では下記のような文言が検討されていました。

また、職員の業務負担軽減や職場定着を図る観点から、職員の腰痛予防に資する取り組みとして、いわゆるノーリフティングケアの取り組みが進められていることも踏まえ、こうした腰痛予防に資する取り組みを勧める事業所を、既存の加算の仕組みを活用しながら評価することを検討してはどうか。 
-第192回社会保険審議会介護給付費分科会 令和2年11月9日 資料より抜粋-

この時点ではノーリフティングケアの文言の採用は見送られています。
その理由は定かではありませんが、噂で聞いたところではノーリフティングケアという文言がまだ馴染んでおらず、現場の混乱を懸念してとのことでした。
そのため、2021年の改正では介護職員の処遇改善や職場環境の改善に向けた取り組みの推進(その1)の中に『腰痛を含む業務に関する心身の不調に対する対応する取り組み』として記載されることになりました。

腰痛予防に資する取り組み2021
-令和3年度介護保険報酬改定の主な事項について 第199回(R3.1.18) 資料1より抜粋-

2021年の改正では見送られましたが、現在でも介護の標準化と介護従事者の労働環境改善は国の重要なイシューとなっています。
以前、【マニアックが語る】腰痛予防だけではない!介護の新常識『ノーリフティングケア』ってなに?でも記載しましたが、2025年度には介護職員が253万人必要とされるところ、就労の見込み人数は215万人とおよそ38万人の労働人口が不足すると言われています。
そのため、生産性の向上や離職の防止、介護の仕事の魅力を発信することによる他分野からの新規参入の促しに国は力を入れているのです。
後述しますが、主に高知県を中心に活動されているナチュラルハートフルケアネットワーク 様(以下、ナチュハ)の取り組みはこの分野に高い成果が出ており、様々な都道府県で高知県をモデルとした取り組みが広がってきています。
このような取り組みは厚生労働省の中の労働基準局が担当となります。
そこで、次の項目では労働基準局内におけるノーリフティングケアの動向を確認していきます。

 

2.労働基準局の動向

労働基準局の検討会の中に『転倒防止・腰痛予防対策の在り方に関する検討会』があります。
今回はこの検討会の資料を読み解いていきます。
令和4年8月30日に第4回の検討会資料『転倒防止・腰痛予防対策の在り方に関する検討会 検討事項の中間整理(案)』の中では下記のように記載されています。

(3)業種や業務の特性に応じた取り組み
ウ 介護職員の身体の負担軽減のための介護技術(ノーリフトケア)や介護機器等の導入など既に一定程度の効果が得られている腰痛の予防対策については、積極的に普及を図るべきである。

(4)職場における対策の実施体制の強化
イ 職場における対策の効果的な(中略)あわせて、自治体によっては「ノーリフトケア」等に取り組む介護施設等優良事業場を公表し、安全衛生水準の底上げを図ることで人材の確保につなげているところがあるため、そのような好事例の展開を図る。

こちらの文言は令和4年5月13日に開催された第1回検討会で検討された内容を整理・明文化されたものとなります。
構成員の方の発言には『高知県で取り組んでいるノーリフトケアというのを、皆さんも御存じだと思います。』というものがありました。
検討会の中ではノーリフトケア・ノーリフティングケアは知っている前提で議題が進んでいることがわかります。
この中で『積極的に普及を図るべきである。』という文言が採用されたため、厚生労働省の基本的な方針がみえてきたと思います。
そのためどのような形でかはまだ定かではありませんが、職員の負担軽減、人材の確保という介護現場を取り巻く問題の対策としてノーリフティングケアが採用されることはほぼ間違いないと推測されます。

 

3,医療分野の動向

次に、医療分野の動向を確認していきます。
こちらは看護師の国家試験に動きが見られました。
下記の図は保健師助産師看護師国家試験出題基準 令和5年版(全体版)から一部抜粋したものです。

こちらは地域・在宅看護論の各論ではありますが、E.在宅療養者の移動を支えるケアのキーワードとしてノーリフトケアが記載されています。
つまり、2023年度からはノーリフトケアを学んだ看護師の方々が現場に参入してくる、ということになります。

そして、実は私は褥瘡学会の在宅ケア推進協会(以下、在宅協)の評議員だったりします。
在宅協の中でも褥瘡予防という観点からノーリフティングケアが推進され始めており、スライディングシートを用いた福祉用具ケアの話は医師や床ずれ排泄ケア認定看護師の方々にも強い関心を持っていただいています。
また現在、在宅協では『リフトのある生活委員会』が発足し、在宅ケアの現場に介護リフトを普及するためにはどのように取り組み・発信すればよいか、という取り組みもスタートし始めています。
このように少しずつですが、医療分野でもノーリフティングケアの考え方が広がるような取り組みが積極的に行われるようになってきました。

 

4.その他団体の動向

ここまでは国や職能団体の動向でしたが、その他法人の動向にも目を向けてみたいと思います。
まずは、以前からアップライドマガジンにも度々登場して頂いている『横浜市福祉サービス協会』様です。
こちらの協会では月に1度、ナチュハの下元先生(高知)や安武先生(福岡)に横浜まで来て頂き(!)ノーリフティングケアの定着に取り組まれています。
施設の職員はもちろん、在宅のサービス提供責任者の方々まで幅広く受講されています。
法人全体で2千人以上の従業員がいらっしゃるそうなので、この規模でノーリフティングケアに取り組まれて定着が進むと、横浜市ではかなり大きな動きになるはずです。
この研修は他の法人の方々でも参加が可能になっていますので、興味がある方は主催者の合同会社ナレッジソース 様のHPをご確認ください。

他には松戸市の『松戸ニッセイエデンの園』 様は私達との取り組みに加え、日本ノーリフト協会の保田代表理事をお招きしての研修を実施されたとのことです。
こちらの法人の職員の方々は2021年12月に私がノーリフティングケアの研修を行ったときには『介護リフトの対象者はそんなにいません』とおっしゃっていました。
しかし、1年間私達とともにノーリフティングケアの実践に取り組んだ結果、今では『〇〇さんも、△△さんも介護リフト必要だよね!ポジショニングやシーティングもしっかりしないと!!』という嬉しい声を聞くことができています。

このように取り組んでから成果が出るまでは時間がかかりますが、取り組みを続けて定着すれば確実に成果が出ることがノーリフティングケアのポイントではないかと私達アップライドは考えています。
今後も国の動向や職能団体の取り組みに着目して、定期的に情報発信をしていきたいと思います。

 

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この記事を書いた人 栗原俊介
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福祉用具一筋15年。福祉用具に関する発信を続けていると「マニアック」と呼ばれるようになりました。趣味のロードバイクは自分の身体でシーティングの効果を実感したいことが始めた動機です。
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