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【 インタビュー 】ノーリフティングケア実践が組織を 強くする!!―後篇― ゲスト 下元佳子さん(一般社団法人ナチュラルハートフルケアネットワーク代表理事)

こんにちは。アップライドの朝日信一郎です。
みなさんは、高知県が全国に先駆けて平成28年に発した「高知家まるごとノーリフティング宣言」をご存じでしょうか。少子高齢化の進む同県で、介護人材の定着促進に向けて、介護する側、される側双方の健康と安全を守るべく始まった取り組みです。この取り組みの誕生に大きな役割を果たしたキーパーソンが、ナチュラルハートフルケアネットワーク代表理事の下元佳子さん。今回はそんな下元さんをゲストに、ノーリフティングケアの大切さや、未来への展望についてお話を伺いました。理学療法士としての立場から、「質の高いケア」を問い続けてきた下元さんの思いがたっぷり詰まった対談、ぜひお楽しみください。

前篇中篇からの続き】

 

地道な活動が、空気を変えた


全国のナチュラルハートフルケアネットワークメンバー(バリアフリー大阪にて)

朝日
ノーリフティングケアを巡る業界の認識が変わったなという実感はありますか?

下元
高知の事業が始まった8年前は、さまざまな職能団体の代表者が集まる諮問会でも、厳しい意見が多かったんですよ。「購入したリフトを活用できず倉庫に入ったままになっている施設があるのに、そんなものに税金かけても何も変わらない」とか、「自立支援をめざしてる大切な時に、何がノーリフトだ、本人の力を奪うのか」とかね。学校関係者も「ノーリフティングのレクチャーにカリキュラムを割くなんてできないし、そもそも購入する予算もない」とものすごく冷たい空気でした。
でもそんな反応もすべて予測していたので、県とあらかじめ話し合って、いろんな機種のリフトを用意して実演もさせてもらって、リフトは決して利用者さんの自立支援を妨げるものではなく、むしろ人力の力任せの介護の方が体にはよくないんだと理学療法士の立場でひとつひとつ説明しましたし、学校には「ボランティアでけっこうですから用具を持って講習に行きますし、貸し出しもします」と言ってたんです。

朝日
最初はそういうところからのスタートだったんですね……。

下元
それも3年経つと空気はガラッと変わって、今では老施協の理事会で「ノーリフトやってないところは人も集まらないから継続もできない」と言われているそうです。これは県外に行っても同じで、これまでは「ノーリフティングとは」の説明をくどくどしないといけなかったのが、ここ数年は行政が主催する管理者セミナーでも、「ノーリフティング」を聞いたこと人は本当に減ってきたなと思います。

 

在宅介護におけるリフト導入の課題とは


朝日
逆にいまだに壁を感じることがあるとすればなんでしょう?

下元
医療機関と在宅介護ではまだ整備が遅れていますね。在宅は、ご家族やケアマネージャー、ヘルパー含めて関わる方みんなの理解が必要なので、そこにまだ課題が残ってる状態です。あとは障がい者さんへの対応ですね。ほとんどの自治体で、高齢者さんは介護保険でレンタルを利用できるからいいですが、障がいをお持ちの方たちの状況は昭和の制度から何も変わっていない。東京や神奈川の一部では、在宅看護に別枠の補助金が出るところがありますが、高知のある例でいうと、お風呂と居室にリフトを入れて自己負担額が180万円だと聞きました。

朝日
たしかに障がい者さんのリフトは、自治体によって天と地ぐらい導入しやすさに差がありますね。それから在宅は関わる方がすごく多いのもおっしゃるとおりで、たとえば1軒の利用者さん宅に、複数の事業者からヘルパーさんが派遣されている場合もあります。そこで弊社の関連会社でもノーリフティングケアに理解のあるケアマネを育成しているところです。在宅のヘルパーさんにはリフト触ったことないという方がけっこういらっしゃるんですが、ヘルパーさんも高齢化してきてて、変化を受け入れにくいところはありますね。

下元
高齢化しているからこそ、仕事が楽になる用品をうまく使うべきなのに、ヘルパーの養成課程の中にリフト体験がないケースがまだまだ多いですね。でも朝日さんと同様、こつこつ変えていくことが大事だと思っていて、私たちのところでも訪問看護ステーションとヘルパーステーションをやっていますが、利用者さんごとにそれぞれ看護、ヘルパー、リハでアセスメントする時に必ずノーリフトの視点を入れています。
高齢化すると変化が受け入れにくくなるもので、訪問看護とヘルパー業務の記録をタブレットで電子化するのも最初は大騒ぎでした。でも導入してみたら、2ヶ月も経つ頃にはみんな慣れて誰も何も言わなくなりましたし、ものすごく業務改善につながりましたね。現場で導入を担当した若手スタッフに「コツは何だったと思う?」って聞いたら、「高齢のメンバーに何回も同じこと聞かれても、初めて聞いたようにふるまって、それ前も言ったよというのは顔に出さないよう徹底した」と言ってました(笑)。

朝日
僕は何回も聞かれたら「それ、前も言ったよ」って言っちゃうかも……。まず自分自身を変えないといけないということですね。

 

介護の未来をともに作っていくために、伝えたいこと


朝日
そうやって空気が変わってきている中で、下元さんが今、改めて伝えたいことは……。

下元
まず施設経営陣にお伝えしたいことは、経営側は職員をきちんと守っていく視点が大事だということです。利用者ファーストで「職員は嫌ならやめればいい」では何もいいものは生まれません。厚労省は、今後介護人材が減っていくことを見越して、業務効率化して「ムリ・ムダ・ムラ」をなくしてくださいと言っています。人員の配置基準も緩和しはじめているので、現場の組織体制を整えて、少ない人数でクオリティ高いケアをできるところをめざしてもらわなくてはなりません。国はそこでAIとロボットをすごく推してますけども、「ムリ、ムダ、ムラ」解消に直接的に結果が出やすいのがノーリフティングだと思いますので、そこに必ずノーリフティングも入れていただきたいですね。
高知の施設さんを見ていて実感するのは、ノーリフティング導入を通じて、同じ目標に取り組むっていう経験を積むと、やっぱり人が育って、施設の力がついていく……つまり組織マネジメントなんですね。介護報酬や診療報酬が変わる中で、次はこうだ、あれをやらなきゃと言われても、ぱっとやりこなしていける対応力がつくんです。

朝日
現場職の方に対してはどうですか?

下元
現場職の方も「抱えたほうが早いからいいよ」とか「自分は腕力でできるからいいよ」とか自分だけを見るんじゃなくて、自分たちの業界をよくしていこうって気持ちで、ここがしんどいとか、こういうのが嫌だと思うところは進んで変えていってほしいですね。

朝日
実際に僕らもノーリフティングに取り組んでいる施設さんと関わらせていただいてますが、現場の方がすごく生き生きしてくるところが多くて。自分たちで課題を見つけて、目標を立ててPDCA回していったことに結果がついてくると、質問される内容も、年々レイヤーが上がってくるんですね。自分たちでいいサービスを追求していこうとする専門職集団になっていると感じます。
入り口はやっぱりトップダウンで決定いただくことが重要だと思うんですが、初めは現場もおそるおそるでも、浸透してきて業務が回り出すとどんどんポジティブな意見が出てきくるんです。

下元
ある事業者さんの話ですが、「生産性向上に資するパイロット事業」に参加されて、施設一丸となってノーリフティングに取り組んで、決められた期間で結果出すために、すごく頑張られたんですね。そしたら、以前は職員が大量に辞めていく状況だったのが、施設内の空気がガラッと変わったんです。以前はリーダーさんたちがいつも眉間にしわを寄せてたのが、今ではものすごく明るく活気があって。

朝日
では私たちのような事業者に対して何かメッセージはありますでしょうか。

下元
私たちは企業さんを世の中の文化を一緒に変えていくパートナーだと思っています。ですから、私たちが行う研修に、ただ機材だけ提供していただくんじゃなくて、同じステージで情報発信することもやっていっていただきたいです。あと、オーストラリアの施設を回っている時、使いやすそうな用具を見かけて「これいいですね」というと、「これは現場から出た意見で作ったものです」という声が返ってきました。そういった開発部分も一緒にディスカッションさせてほしいですね。
それからアップライドさんはすでにやられていますけど、購入だけでなくレンタル、サブスクと、いろんな現場のニーズに合わせて選べる選択肢を提供していただければと思っています。介護保険の始まりの頃、「日本にレンタルはなじまない」と言われたものですが、いまでは当たり前になっていますから。

 朝日
そうですね。僕らはリフトや用品を扱っていますが、それらはあくまで手段のひとつで、めざすのは、施設の方たちが介護の仕事は素晴らしいんだって自信を持てる環境整備のお手伝いをすること。施設さんからパートナーだと思っていただけるような会社にしていきたいと思っています。

下元
私の場合、県が取り組んでくださるようになるまでの年月はものすごく効率が悪くて、壁にぶつかって結果が出せない時間がものすごく長かったと思うんですね。ですからいずれ次世代にバトンタッチする頃には、もっと早いスピードで結果がサクサク出せるよう、あと数年、畑を耕すつもりでやっていきたいなと思います。

(完)


3回にわたってお届けした対談、いかがでしたか?
下元さんの深い人間理解と包容力に満ちた献身なしには「高知モデル」は成り立たなかったのではないでしょうか。「ともに世の中を文化を変えていくパートナー」という言葉に、改めて「ケアと暮らしの仕立て屋」としての思いを新たにしました。ノーリフティング導入を検討されている方々の参考になれば幸いです。ご意見、ご感想などあればぜひお聞かせください。

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この記事を書いた人
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朝日 信一郎
介護リフトの可能性に魅せられ10数年。スタッフのコーチングから現場仕事まで日々奔走中。シャイですが情熱は人一倍。
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