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【マニアックが語る】褥瘡(床ずれ)予防と外力と福祉用具と!!【二次障害予防】
2024.3.08

みなさんこんにちは!
トランスファーサポートチームの栗原です。
姿勢ケアについて話をするときに褥瘡と外力の因果関係の話は外せません。
しかし、目に見えないこの力、中々うまく伝えることが難しいのです。
目には見えないからと言って意識しないと、現場が大変なことになってしまいます。
それは二次障害、とりわけ『褥瘡・床ずれ』『高い筋緊張』『誤嚥性肺炎』という形で現れてきます。

さて、そんなわけで今回は外力の影響、つまり『褥瘡』について深掘りをしていきたいと思っています。
褥瘡、もしくは床ずれのことを聞いたことないよ?って人もいるかも知れません。
そのため、まずは基礎を簡単に振り返って、主に福祉用具に着目した内容をまとめてみようって試みです。

 

褥瘡(床ずれ)とは?

とはいえ、私はあくまで福祉用具専門相談員なので、医療面は明るくありません。
そのため、褥瘡の定義は日本褥瘡学会より引用させて頂きました。
学会のホームページでは以下のように定義されています。

褥瘡とは、寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、
皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうことです。
一般的に「床ずれ」ともいわれています。 ―日本褥瘡学会HP 褥瘡についてより引用―

ここでは傷と書かれていますが組織が壊死、つまり腐るような状態になります。
そのため、今では少なくなりましたが深度が深い褥瘡の場合、部屋に入ると独特な匂いがありすぐに気づくほどでした。
皮膚や肉がなくなり、神経組織や骨が見える状態になります。
褥瘡は『痛い』のです。
非常に痛みが強いため身体の緊張が高くなったり、感染症にかかりやすくなるなど、様々な問題を引き起こす要因となりやすいです。
また非常にやっかいな点として、皮膚表面にできる傷だけではなく、皮膚内部の軟部組織から壊死が始まるケースもあります。
この場合、皮膚がめくれると非常に深い褥瘡が現れるケースになります。
皮膚が赤くなる発赤段階だからと甘く考えず、内部で深いキズになっている可能性も考慮しなければなりません。

 

褥瘡はなぜ発生するのか?

褥瘡の発生要因は『外力』です。
低栄養な状態やおむつ等による汚染や皮膚の乾燥などが要因ではないのか?と思われた方もいると思います。
これらはあくまで褥瘡を発生させやすくする『間接要因』となります。
これらの要因で脆弱になった細胞へ『外力』がかかることで褥瘡は発生します。
『間接要因』を軽んじるわけではなく、たとえ脆弱になった細胞だとしても、外力を減らすことでリスクを減らすことができるという意味合いになります。
後ほど述べますが、極論をいえば圧力がない空間では理論上褥瘡が発生しないことになります。
つまり、無重力空間の宇宙では発生しない、もしくは極力抑えられると考えられています(別の問題が非常に大きくなりますが)
そのため、本人の身体状況を問わず外力がかからないようなケアを常に提供することが、日常的に行える褥瘡予防となります。
つまり、引きずらない、こすらない、持ち上げないケアである『ノーリフティングケア』(他記事参照)と、主に座位・臥位の生活環境を整える『シーティング』(他記事参照)・『ポジショニング』が重要となるのです。
また、これらを再現性高く、誰もが提供できるような福祉用具の使い方を周知することも重要なポイントとなります。

 

ズバリ、要因は?

褥瘡が発生する外力の種類は大きく分けて以下の4つになります。

1.圧力

2.ズレ力(せん断力)

3.摩擦力

4.マイクロクライメント

この中でも特にポイントとなるものが、『圧力』と『ズレ力』になります。
摩擦力はズレ力とイコールではありませんが、ほぼ一緒に対処することが概ね可能なため、今回は割愛します。
また、マイクロクライメントは湿度や熱源により細胞が脆弱になる要因です。
そのため、空調やクッション等の素材、姿勢変換による通気性の確保などがポイントとなるため、こちらも割愛します。
『圧力』と『ズレ力』を理解することが、褥瘡予防のハジメの一歩といっても間違いありません。

 

『圧力』ってなんなのさ!?

この仕事を始めてから初めて聞いて、今では考えない日がない言葉、それが『圧力』です。
目には見えないこの『圧力』をコントロールすることこそ、福祉用具による姿勢ケアの真髄といっても過言ではありません。
褥瘡予防における『圧力』は、体の一部が硬い面によって押し付けられる力のことを指します。
この圧力が長時間継続することで、血流が妨げられ、組織にダメージを与え、褥瘡が発生するリスクが高まります。
特に、骨が皮膚に近い部位(例えば、尾骨やかかと)では圧力による影響が大きくなります。

圧力に対する対策としては、大きく分けて2つになります。

1.体圧を分散支持する

2.姿勢を変換・体圧を移動する

1の『体圧を分散支持する』という考え方は、局所にかかる圧力を減らす考え方になります。
そのためには接触面積を広く受け止める必要があります。
マットレスやクッションなど身体に触れる素材を柔らかくしたり、人体骨格上隙間が空きやすい箇所を支えるようにする方法になります。
つまり、座る環境を工夫する方法論になります。
『シーティング』や『ポジショニング』がこの領域になりますね。

2の『姿勢を変換・体圧を移動する』という考え方は、局所にかかる圧力を他の箇所で支持する考え方になります。
たとえば、仰向け(仰臥位)に寝ている人が横向き(側臥位)に姿勢を変えると背中ではなく身体の横側が支持面となります。
もしくは、寝ている状態(臥位)から座っている姿勢(座位)に姿勢が変わると、圧力のかかる方向が大きく変わります。
このように本人の姿勢を変えるような方法、つまり移乗や体動についてアプローチする方法になります。
つまり、ケアや過ごし方の手法を工夫する方法論になります。
『ノーリフティングケア』や介護リフトを始めとした移乗用具の選定がポイントとなります。

 

『圧力』は身体に悪いもの?

『圧力』は褥瘡の要因になります!と書くと圧力が身体に悪いもののように感じるかもしれません。
でもそれは大きな間違いです。
『圧力』を減らす代表的な福祉用具がエアマットです。
では全ての利用者・患者にエアマットを入れれば良いのでしょうか?答えはNOです。
多くの人が介助がやりにくくなり、本人も動きにくくなるから、という回答をされるかと思いますが、それだけではありません。
エアマットの効果をわかりやすく言うと、『圧力』を減らす、つまり重力が人体に与える影響を減らすことになります。
つまり、宇宙空間に近い状況を作るものがエアマットといえるかもしれません(乱暴ですが)。
TVで宇宙から帰ってきた宇宙飛行士の方々を見たことある方は思い浮かべてほしいのですが、自力で歩けていないですよね?
宇宙飛行士は毎日2~3時間ほどエアロバイクなどの筋力トレーニングを行っているにも関わらず、歩けなくなってしまうのです。
つまり、私達の筋力を維持するためには適度な重力、つまり『圧力』が不可欠なのです!
そのため、エアマットを使用すると褥瘡予防には効果を発揮しますが、逆に身体の緊張が上がってしまい、変形拘縮の要因になりえてしまいます。
とある講師の方はこの現象を『エアマット症候群』と名付けており、福祉用具の誤用症候群の一つとして考えられています。
宇宙では褥瘡はできないかもしれませんが、筋力低下ひいては変形・拘縮を招いてしまいます。
利用者・患者の方が過ごす環境により、どのような良い影響・悪い影響があるかを常にコントロールすることこそ、福祉用具による姿勢ケアの真髄の一つなのです。

 

『ズレ力』それは目には見えず、意識することも難しい、大きな力です

『ズレ力』・・・この摩擦力と混合されやすい外力を言葉で説明することが非常に難しいです・・・。
というのも、『ズレ力』は皮膚の中、軟部組織といわれる層で発生している力のためです。
まずは次の動画をごらんください。

こちらの動画はベッドの頭側だけ起こしてしまうと、身体が下方にズレてしまう問題を可視化した動画です。
何も敷かなくても下にズレていますが、スライディングート(青い布)を敷いたほうはすごい勢いで下方にズレていることがわかると思います。
おそらく、ほとんどの方はスライディングシートを敷いたほうが落ちそうで危険だ!と思われたと思います。
しかし、真に恐ろしいのはシートを敷かず、あまり下方へズレなかった方なのです・・・。

 

今、何が起きているかを正しく評価しよう!

この動画はベッド環境、使い方、利用者役の山田さんは変わっていません。
変わったことはスライディングシートを敷いたこと、つまり摩擦力をなくしただけです。
つまりこの動画は『摩擦力がなくなってもズレ力はそのままだと何が起こるか?』という動画なのです。
動画のようなベッド操作は身体を下方にズレる力が発生します。
しかし、スライディングシートが敷かれていないとズレる力が発生していないように見えるかもしれません。
違います、これは本人の身体の中で同様のズレる力が発生しているのです。
山田さんの身体を下方へズラす大きな力が身体の中で発生する、その結果、身体の内部の細胞を引きちぎってしまうのです。
最初に褥瘡が発生するのは身体の奥深くから発生し、皮膚表面近くは最後になります。
そのため、皮膚がめくれたときには内部で深い褥瘡がすでに発生していた、という事態となるのです・・・。
これが『ズレ力』の恐ろしさです。
車椅子から滑り落ちそうになる方がいた場合、滑り止めシートを安易に敷いていませんか?
これは動画と真逆の方法になります。
つまり、落ちなくなるかもしれませんが、ズレ力が発生する要因が変わっていなければ、軟部組織にかかるズレ力はむしろ大きくなってしまいます。
ズレ力対策のために、車椅子から落ちてもいいと言っているわけではありません。
大切なことは、『なぜズレ力が発生しているのか!?』これを突き止め、対策することに他なりません。

 

その褥瘡、『圧力』なの?『ズレ力』なの?どっちなんだいっ!

実は、褥瘡の創傷面を観察すると、『圧力』が原因なのか『ズレ力』が原因なのかを推測することができます。

この写真は在宅で終末期を迎えた方の写真になります。
写っている傷はすべて褥瘡という評価が床ずれ排泄ケア認定看護師の方よりでています。
この傷口を見てもらうと第一印象は『傷の形がだいぶ違っていない?』というものかと思います。
実は、この傷口、つまり創傷面を観察すると原因となった外力がある程度推測できるのです!

こちらの赤色と黄色で囲った創傷面に着目してみてください。
赤色は『広く均一』で、黄色は『縦に深くえぐれている』様子がわかりますでしょうか。
結論を言えば、原因はこちらになります。

赤色は『圧力』

黄色は『ズレ力』

褥瘡は必ず外力が影響します。
そのため、赤色は同じ姿勢を取り続けたことにより、広く触れた仙骨が均一に褥瘡となっています。
一方、黄色は体位変換の時に身体が擦れてしまい、そのズレによって発生した褥瘡となります。

赤色の原因は仰向け(仰臥位)で長時間過ごしていたことが原因になります。
この方は独居で、なおかつご自分で体位変換ができない方でした。
そのため、ハイスペックなエアマットを導入していましたが姿勢が変わる機会が少ないため、褥瘡が発生したと考えられます。
もちろん、栄養状態やおむつ等排泄の環境も良くはないため、これらの影響もあったと思われます。
終末期ということもあり経口摂取量や排泄環境を変更することも難しいため、変更できる点として、ヘルパーの介入数を増やして姿勢のバリエーションを増やすことになりました。
その結果、これ以上の悪化は防げるようになり、長時間の姿勢保持が原因だったという評価となりました。
しかし、このケアの変更が黄色の褥瘡を発生させる要因となったのです。

 

仙骨の褥瘡予防のケアが、別の褥瘡を発生させてしまった・・・

仙骨の褥瘡悪化を防止するために横向き(側臥位)への体位変換支援が増えました。
するとある日を境にどんどんと黄色の褥瘡が発生、悪化していったのです。
先にも述べたとおり、黄色の褥瘡は『ズレ力』によるもの、つまりどこかで擦れ・引きずりが発生しているはずなのです。
最初はポジショニングクッションで体位を保持しているときに、徐々にずれていったのではないか?という推論があがりました。
しかし、その場合は身体の外から中へズレず力がかかるため、ズレる方向が逆になるのです。

上の図を見て頂いたとおり、ズレる方向は身体の中から外へズレていることがわかるかと思います。
生活場面で身体の中から外へズレる場面、みなさん想像できますでしょうか?
答えは・・・

 

 

この普段から何気なく行われている、体位変換の時に身体を引き戻すケアが黄色の褥瘡を作っていたのです。
要因が特定できれば対策は簡単です。
なぜならばヘルパーを始めとした現場に介入している方々の技術は素晴らしいのです。
何が原因なのか? 何を対策すればいいのか? どのようにすればいいのか?
この道筋、PDCAさえ提示できれば改善が可能なのです。

原因を伝えた瞬間、スライディンググローブを使ったケアへ全員が変更してくださいました!

 

褥瘡予防をはじめとした二次障害予防は、Whyを突き詰めることが重要!

日本褥瘡学会・在宅ケア推進協会 会長の塚田先生の講義で忘れられない一言があります。

かかとの褥瘡の原因・外力は圧力よりもズレ力のほうが影響が大きい

この言葉を聞くまで私自身、かかとの褥瘡は圧力だと思っていました。
しかし、先程のベッドギャッジアップの時のズレ力や、ベッドから降りる時のズレなど、様々な場面でかかとにはズレ力がかかっています。
エアマットを入れていてポジショニングまで気をつけているのにかかとの褥瘡が治らない。
そんなケースはありませんか?

ベッドギャッジアップをして食事をしていませんか?
端座位になるときにかかとをこすりながら移乗していませんか?
普段はベッド上で起き上がって生活していませんか?

このように、『なぜ(Why)褥瘡をハジメとした二次障害が発生しているのか?』を考えることが、正しい対策のハジメの一歩になるはずです。

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この記事を書いた人 栗原俊介
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福祉用具一筋15年。福祉用具に関する発信を続けていると「マニアック」と呼ばれるようになりました。趣味のロードバイクは自分の身体でシーティングの効果を実感したいことが始めた動機です。
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